病院。
林富岡は鈴木末子を見つめながら、「雲さんの件は私が処理する。あなたと夏美は足をゆっくり治しなさい」と言った。
「でも、あなた。被害者の家族が言ってたわ。来月初めまでに賠償金が支払われなければ、富康製薬を告発すると。そうなったら私たち...」鈴木末子はそこまで言って、言いよどむような困った表情を浮かべた。
すでに40代半ばだというのに、手入れが行き届いているせいで、全身から漂う艶めかしさは若い女の子のそれとは違い、より一層の色気を感じさせた。
以前なら、鈴木末子のこんな仕草に林富岡はすぐに心を痛め、なだめて譲歩したことだろう。
しかし今日は、結城家で夏川清美にやられ、結城家の冷遇を痛感し、その後雲さんを殴ったものの、亡き妻のことを思い出してしまい、鈴木末子の言葉に反応しなかった。
鈴木末子はこれを見て、心中穏やかではなかったが、表向きは話題を変えた。「あなた、雲さんの件を処理したら、佐藤清美がまた怒るんじゃない?あの子、雲さんのことをとても大切にしているわ」
「もう解雇した。今後二度と林家に足を踏み入れさせない」雲さんと夏川清美のことを持ち出され、林富岡は全身不快感に襲われた。
以前はあんなに素直だった娘が、今はこんな風になってしまったのは間違いなく雲さんの影響だ。簡単には許せない。家の件が片付き次第、すぐに雲さんを詐欺で訴えるつもりだ。
そうすれば、あの生意気な娘に自分が何を間違えたのか分からせてやる。
そんな考えが頭をよぎる中、林富岡の表情は依然として暗かった。「今回の賠償の件だが、このプロジェクトに会社がどれだけの財力と物力を投入したか、あなたも知っているはずだ。賠償の処理をきちんとできなかったのはあなたなのだから、最後まで責任を取ってもらう。富康製薬についての噂話は、もう聞きたくない」
林富岡は馬鹿ではない。すでに会社の帳簿を調べており、あの賠償金は前回会社の口座から出ているが、実際に治験参加者に支払われたかどうかは、鈴木末子の言葉を信じるしかない。
普段なら見て見ぬふりをしていただろうが、今日は娘のところで痛い目に遭い、林夏美が結城家に嫁いだ手段が実に不名誉で、自分の面目も失われたことを考えると、気分が悪く、態度も強硬になった。
「でも、あなた、私...」
「もう決めたことだ」林富岡は言い終わると病室を出た。