第51章 正陽様があなたの義兄になる

槙島家と林家は取引関係がありました。

ただ、林家は結城財閥を後ろ盾にしていたため、この数年で少し発展しましたが、槙島家は違いました。

槙島家は元々医薬品スーパーを経営していましたが、後に医療機器事業に転向して財を成しました。しかし、ここ数年の国内医療の急速な発展に伴い、医療機器への要求が高度化し、槙島家のような小規模企業は市場競争力を失っていました。

この数年、槙島家は変革を求めながら人脈を広げようとしていました。林家は大金持ちとは言えないものの、信州市では名の通った家柄であり、自然と槙島家が取り入ろうとする対象となっていました。

今やゴシップ芸能プロダクションが林家のお嬢様と結城家の次男との婚約を報じ、林家の評判は信州市で一際輝いていました。

そして槙島秀夫は林夏美の先輩で、二人は学校でも仲が良かったのです。

槙島家は婚姻関係を結ぶ意向を匂わせていましたが、残念ながら鈴木末子と林夏美は槙島家を気に入りませんでした。

しかし、林夏美は槙島秀夫に興味がなかったものの、夏川清美が槙島秀夫に密かな恋心を抱いていることに気付きました。

前回夏川清美が事件に巻き込まれたのも、槙島秀夫に会いに行ったためでした。

まさか結城家の次男と寝てしまうことになるとは誰も想像していませんでした。

このことを思い出すと林夏美は歯ぎしりしてしまいます。

槙島家は今まさに林家に取り入る機会を探していたところで、林夏美が少し暗示を与えると、その午後には槙島家の両親が槙島秀夫を連れて見舞いに来ました。

話はすんなりとまとまりました。

夕方、夏川清美は見知らぬ番号からの誘いのメッセージを受け取り、迷惑メールとして削除しました。

槙島秀夫は返信が得られず、夏川清美に電話をかけましたが、一度鳴っただけで切られてしまいました。「分かってないな」と呟きながら、振り返ると車椅子に座る林夏美が目に入り、口調を変えて「夏美ちゃん、本当にあの醜女と結婚しろっていうの?」と言いました。

夏川清美は中学生の頃から重たい前髪を垂らし、分厚い黒縁メガネをかけ、コンプレックスが強く、服装にも無頓着で、いつも大きめの制服を着ていたため、槙島秀夫は今でも夏川清美の本当の容姿を知りませんでした。