夏川清美は木村久美を抱いて育児室から出てきた。小さな子はまた眠りについた。
ただし、今回はとても安らかな眠りだった。
野村越は沢田浩司に事情を説明した。沢田浩司の予想通り、彼は後悔を抑えきれなかった。林夏美の感情と健二の言葉に惑わされていたのだ。
いつもの邪気な美貌に珍しく後悔の色が浮かび、冷たい態度で車に戻った。
野村越は夏川清美を結城家の本邸まで送り届けた。
夏川清美が意外に思ったのは、まるで世界から消えたかのように静まり返っていた結城家の使用人たちが、何事もなかったかのように庭に戻り、それぞれの仕事に戻っていたことだった。
お爺さんは青灰色の中山服を着て、広間の椅子に寄りかかっていた。夏川清美が木村久美を抱いて入ってくるのを見ると、杖をつきながら立ち上がり、「久美はどうだった?」
「大丈夫です。眠っています」夏川清美は小声で答えた。
「そうか、そうか...」お爺さんは「よかった」と何度も小声で呟き、宙ぶらりんだった心が完全に落ち着いた。他の人々を見て、「みんな下がってくれ。山田くん、子供を二階に連れて行って寝かせてくれ。清美は残れ」
しばらくすると、広い客間には夏川清美とお爺さんだけが残った。
曾孫への心配が和らいだ今、結城お爺さんの目は慎重で、夏川清美が見たことのない厳しさを帯びていた。
「結城陽祐さんの病状についてお聞きになりたいのですね?」夏川清美はお爺さんが自分を残した理由を察することができた。
案の定、お爺さんの表情が引き締まり、深いため息をついた。「清美...陽祐の胸を閉じたのは君か?」
夏川清美は頷いた。「はい、緊急事態でしたので」
「よい子だ。どうあれ、ありがとう」お爺さんは最初、結城陽祐の心臓の状態について聞こうと思ったが、夏川清美の澄んだ目を見て、この子がまだ医学生に過ぎないことを思い出した。あの状況で陽祐の胸を閉じて傷を縫合できただけでも大したものだ。それ以上を期待するのは無理だろう。
結局のところ、まだ子供なのだ。加藤迅でさえ100%の保証ができない手術を、清美ちゃんができるはずがない。これ以上聞くのは子供の負担を増やすだけだ。
「結城お爺さんがお怒りでなければよいのです」夏川清美は結城お爺さんの考えを知らず、丁寧に答えた。