結城家の婚約パーティーは、この事件の影響を受けることなく、依然として整然と進行していた。
野村越は結城陽祐の個人秘書として、二少の代わりに来賓を迎えていた。来客は信州市、さらには京都の上流階級の人々で、一人一人が軽視できない存在だった。
ホテルの自動ドアでの銃撃事件は、まるで何も起こらなかったかのようだった。
十数人の女性と山田麗は警察に連行され、槙島家は混乱に陥っていたが、もう一方では歓声と笑い声が響いていた。
銃撃を受けた健二でさえ、弾丸を取り出した後、二少が林夏美のために特注したウェディングドレスを7階に届けるよう手配していた。
林夏美の化粧室は2階に設置されていた。
誰も結城家のこの婚約パーティーに何か問題が起こるとは思っていなかった。
林富岡と鈴木末子は群衆の中を行き来し、時折酒を勧められ、二人とも顔を紅潮させていた。特に林富岡は、庶民の出身で、自力で成功を収め、矢崎家の令嬢と結婚してから初めて上流社会に足を踏み入れた。
しかし、上流社会であればあるほど、出自が重視される。彼は矢崎若雅との結婚は愛によるものだと自負していたが、矢崎お父様の好意を得ることができず、苦悩の日々を送っていた。
矢崎若雅が亡くなった後、矢崎家の支援を失い、事業は急降下した。幸い鈴木末子のような良妻を得て、穏やかな生活を送ることができたが、野心のある男性として、これらは権力がもたらす幸福感には及ばなかった。
今日、林富岡は権力者たちの間を行き来し、ようやく上流社会の入り口に触れることができた。
しかし、これは単なる入り口に過ぎないことを彼は知っていた。中に入るためには、林夏美が結城陽祐というお金持ちの婿を確保し、最低でも結城湊を立派に育て上げる必要があった。そうすれば、林家は大きく変わるはずだった。
このことを考えると、林富岡は鈴木末子を見る目に深い愛情が宿った。
鈴木末子は林富岡のように感情を表に出さなかったが、人々から仰ぎ見られ、ニュースに出てくような人物から挨拶される光景に、本当に目が眩むような思いがした。
そして、これが始まりに過ぎないと考えると、鈴木末子はこれまでの策略が全て価値あるものだったと感じた。
今日から、彼女の娘は真の鳳凰となるのだ。
林夏美というデブに関しては、彼女の娘が上へ這い上がるための最大の踏み台に過ぎなかった。