「どうしたの?」林明里は自分のネイルを見下ろしながら、上の空で尋ねた。
林夏美は死んでしまったのだから、年寄りの尼が逃げようが逃げまいが、どうでもいいことだった。
「あの老いぼれは、デブ野郎に何かあったと聞いて、油断した隙に逃げ出しやがった」鈴木政博は悔しそうに言った。確かに二人を見張りに付けていたのに、どういうわけか逃げられてしまい、監視役の二人も姿を消してしまった。
鈴木政博は、責任を取りたくなかったのだろう、老いぼれが逃げたのを見て、一緒に逃げ出したのだと推測した。
心の中で縁起でもないと呟きながら、表面上は恭しく林明里を見つめた。
林明里は話を聞き終わると軽く鼻を鳴らした。「どうせ現れるわ。槙島家との婚約式があるんだから。林叔父さんに言っておいて。あのデブ野郎は死んだけど、家はまだあるわ。あの老尼から取り戻して、私の投資用にちょうどいいわ」