秋山綾人の興奮を結城陽祐は完全に理解できたが、説明するつもりはなかった。
「私の体調のことを、お爺さんに説明してくれ」結城陽祐の主治医として、秋山綾人はお爺さんから深い信頼を得ていた。
秋山綾人に結城陽祐の体調を説明させることで、より信憑性が高まり、同時に秋山綾人を落ち着かせる効果もあった。
案の定、結城陽祐の言葉を聞いた秋山綾人は、この出来事が信じがたいものの、あり得ないことを全て排除すれば、残された一つがどんなに信じがたくても、それが事実だと気付いた。
彼は正陽様の主治医として、手術には参加していなかったものの、開胸後に加藤院長が退室し、研究室には正陽様と生体供血者だけが残されたのを目撃していた。
今や正陽様の心臓機能が正常に回復しているのは、自然治癒であるはずがない。
しかし、彼の胸を閉じたのは林夏美だけだった。まだ19歳にもならない太めの女の子で、医科大学の1年生にすぎない。
しかし、どうしてそんなことが可能なのか?
加藤院長が多くの専門家を連れてきても、手術の成功率を保証できなかったのに、目の前のこの女の子が……
秋山綾人は深く息を吸い、正陽様の意図を理解し、信じがたくても事実は事実として受け入れ、しばらく考えてから結城陽祐の状態をお爺さんに説明した。
「正陽様の手術は非常に成功し、現在の回復状態も良好です。合併症もなく、適切な療養を行えば、完治後は普通の人と変わりありません」と言い終わった秋山綾人は、思わず再び林夏美を見つめ、「君は……一体どうやってやったんだ?」
夏川清美は以前、医術コンテストに参加して結城陽祐に自分の実力を証明しようと考えていたが、事態の進展とともに、今の自分には目立つよりも実力を隠すほうが適していると気付いていた。そのため、秋山綾人の質問に対して、わざと愚直に笑って「たぶん、運が良かったんでしょうか?」と答えた。
秋山綾人は「……」
正陽様のこの開胸手術は実際、難度はそれほど高くなかった。大きな課題は縫合技術への要求と、パンダ血液の特殊性により、手術中に大量出血を起こしやすく、取り返しのつかない事態を招く可能性があることだった。
しかし、天の恵みにより手術が何の問題もなく順調に進んだという可能性も否定できない。