第271章 林富岡の秘密

林夏美は邪魔が入って、結城和也に近づくのが難しくなってしまった。

しかし今はそんなことを気にしている場合ではなく、結城和也の言葉が頭から離れなかった。「お前の父は我が結城財閥の株主だぞ」。結城財閥の株主?

林富岡が結城財閥の株主?なぜ母と自分は知らなかったの?

そして林富岡が結城財閥の株主なら、どうして富康製薬の資金不足で悩んでいたの?

でも結城家二番目の若旦那である結城和也が、嘘をつくはずがない!

じゃあ、これは本当なの?

結城財閥の株主ってどういうこと?たとえ2パーセントの株式でも、年間の配当金だけで半生遊んで暮らせるのに、林富岡はこんな大きなことを母に一度も話さなかったの?

これは、彼が母娘を本当には受け入れていなかったということ?

そう考えると林夏美は不愉快になった。あの老人が母と自分にどれだけ優しかったと思っていたのに、結局これまでのことは些細な恩恵に過ぎず、本当の財産は隠し持っていたのだ。

でも五十過ぎのジジイがそんな大金を持って何をするつもり?まさか林夏美のあのデブに残すつもり?

夢見るな!

「夏美さん?一緒に飲みましょう」林夏美は林富岡の結城財閥株式のことで頭がいっぱいで、隣に人が来たことにも気付かず、突然呼ばれて茫然と目の前の人を見つめた。

その人は自己紹介した。「瑞穂エンタメの副社長の曽根新です。林さん、お会いできて光栄です。夏美さんと呼ばせていただいても?」

「い、いいですよ」林夏美は驚いて返事をした。瑞穂エンタメはここ数年で急成長した芸能事務所で、大手の映像会社には及ばないものの、某大手動画プラットフォームを後ろ盾に、わずか3、4年で多くのスターを生み出していた。以前オーディションを受けたことがあったが、落選してしまった。

まさか今日、副社長が自分に声をかけてくるとは。

林夏美は心の中で興奮しながらも、表面上は落ち着いて対応した。周りの人々の表情が、先ほどまでの軽蔑や嘲笑から変わっていることに気づき、すぐにその理由を理解した。

結城財閥の株主という身分は、とても便利だった。

そう考えると、林夏美は密かに決意を固めた。必ずあの老人の株式を手に入れてみせる。

そうすれば、誰の顔色も伺う必要はない。