夏川清美は結城陽祐との外出が買い物になるとは思ってもみなかった。
健二が大小の買い物袋を抱えて、目だけを出して苦々しい表情で夏川清美と結城陽祐の後ろを歩いていた。
一方、野村黒澤は賢明にも、結城陽祐と夏川清美が買い物をしている間にぬいぐるみ屋で太った狐のぬいぐるみを全て買い占め、ついでにその会社のキャラクターの著作権まで買い取ってしまった。これからは結城家しかこのぬいぐるみを持てないだろう。
彼が太った狐のぬいぐるみを二袋も持って来た時、夏川清美は大喜びで、結城陽祐からも重労働を免除してもらえた。
一行は人々の視線を浴びながらショッピングモールを後にした。
ショッピングモールの片隅で、本来病院に行くはずだった林明里がこの光景を目の当たりにし、目が真っ赤になった。
彼女は正陽様が夏川清美にこれほど優しくするなんて信じられなかった!
その優しさは彼女を狂いそうなほど嫉妬させた。結城陽祐のような人がデブ野郎にこれほど優しくするなんて想像もしていなかった。その一挙手一投足に表れる思いやりと優しさは、毒を塗られた剣のように彼女の心を深く刺した。
しかしそれはまだ最も毒のある部分ではなかった。
最も毒なのは、夏川清美が今享受しているこれら全てが本来は彼女のものだったということだ。
これこそが林明里の心に突き刺さった最も毒のある棘だった。
婚約式で面目を失い、結城家の奥様の座を失い、ネット上で嘲笑されても、林明里は心の中で信じ続けていた。結城陽祐が新しい花嫁を選んだのは、彼女の欺きに怒っただけで、たとえ夏川清美と婚約しても、結婚することはないだろうと。
そして彼女のこの一年の正陽様との付き合い方から見ても、デブ野郎は正陽様から何も良いものを得られないはずで、結局は見捨てられる、それは時間の問題だと思っていた。
しかし今、何が起きているのか?
正陽様はこのデブ野郎のために林グループの株式52パーセントを騙し取っただけでなく、自ら付き添って買い物をし、さらに惜しみなく大量の買い物をしてやっている。
これが彼女の知っている結城陽祐だろうか?
「お母さん、あのデブ野郎は正陽様に一体どんな惚れ薬を飲ませたの?正陽様がどうして本当に彼女に優しくできるの!」林明里は低く呟き、瞳の奥に毒々しい感情を宿していた。