軽くため息をつき、夏川清美はカフェを出て、ATMの前を通りかかった時、ふと思い立って、バッグから一度も使ったことのないブラックカードを取り出し、残高照会をした。しばらくすると、画面に残高が表示された。
3の後ろに続く数字を見て、夏川清美は一つ一つ数えてみた。指を折りながらもう一度数え直し、最後にようやくこれが億単位の残高だと確認した。
唾を飲み込んで、もう一度数えた。
夏川清美は前世でもお金に困ることはなく、むしろ非常に裕福だったが、カードの残高が億単位になることは決してなかった。
結城陽祐が手術用メスに2億円も使う理由が少し分かった気がした。結局、あの男はお金しか残っていないのだろう。
財産争いで血で血を洗うような争いが起きる名家があるのも無理はない。巨大な利益の前で、誰が本当に欲を持たずにいられるだろうか?
彼女は世俗的でなく、欲深くもなく、お金への執着も薄いと自負していたが、このカードの残高を見ても心が高鳴るような感覚があった。まして他人ならなおさらだろう。
しかもこれは結城財閥の5パーセントの株式からの配当金で、その一部はなつき信託の基金で運用され、孤児院への支援にも使われている。全てを合わせればさらに大きな額になるはずだ。では結城財閥の実権を握る者の持ち株はいったいどれほどの価値があるのだろう?そこに絡む権力配分こそが最も魅力的なのかもしれない!
結城家の各家が血で血を洗うような争いをするのも無理はない。
車に戻ると、夏川清美は結城陽祐を見る目が複雑になっていた。
結城陽祐は横を向いて、「どうした?」と聞いた。
「何でもない」と夏川清美は首を振った。
しかし結城陽祐は彼女が何でもないとは思えず、女性を不自然に見つめながら、横から四角い水筒を取り出して夏川清美に渡した。「ほら」
夏川清美は水筒の中の黒赤い液体を見て、「ん?」と首をかしげた。
結城陽祐はイライラして、この女は空気が読めないなと思いながら、むっつりと「黒糖湯」と言った。
「黒糖湯?」夏川清美はますます困惑した。なぜこれをくれるのだろう。
水筒を握ったまま結城陽祐はついに怒り出した。「お前は本当に女か?」
「私は...そうよ」夏川清美は男の白い肌がだんだんピンク色に変わっていくのを見て、水筒の中の黒糖湯を見つめ直すと、突然理解し、どもりながら答えた。