「はい」
野村黒澤は、陽祐さんのこの決断が何を意味するのかを理解していた。
林家のこの5パーセントが手に入らなければ、彼らは今後、厳しい戦いを強いられることになる。残りの株式は非常に分散しており、その小株主たちは結城財閥に深く根を下ろし、利害関係が複雑に絡み合っている。それぞれが老狐のような狡猾な存在で、日和見主義者であり、その株式を手に入れるのは容易ではない。
さらに結城家の二つの家系も彼らを注視しており、本家の当主もまもなく出所する。株式を奪うどころか、支持を得ることさえ難しい。
これが、陽祐さんが別の道を探り、残りの5パーセントの株式の所在を必死に調査した理由だった。
誰が想像しただろうか。株式は手に入らなかったものの、陽祐さんは先に息子と妻を得ることになるとは。
野村黒澤は、この出来事が不思議でならなかった。
そして今、陽祐さんがこのような決断をしたのは、彼らしくない。野村黒澤の推測が間違っていなければ、陽祐さんは若奥様のことを考えてのことだろう。
若奥様の林家での以前の立場や、妊娠・出産の過程を理解していた彼は、若奥様と鈴木の母娘との対立が解決不可能なものであり、まさに生き残りをかけた戦いであることを知っていた。
もし陽祐さんが鈴木の母娘と協力すれば、確実に若奥様の心を傷つけることになる。
だから困難な点は困難なままでいい。そのために彼らがいるのだから!
「そうだ、仲田社長はまだ見つからないのか?」この話題に触れ、結城陽祐は眉間をさすった。
「信州市に到着したという情報はありますが、我々の人間は今まで会えていません。相手は非常に慎重で、現在はなつきの信州市担当の上杉部長だけが接触しています」
「さらに調査を続けろ」結城陽祐は初めてこれほど手強い相手に出会った。現在まで国内では相手が仲田姓であることしかわからず、姿を見せたことがない。なつきは設立から20年以上経ち、本社はフランスにあり、ここ数年で国内市場に参入したばかりだが、発展は極めて急速で、すでにその業界のリーダーとなっている。しかし、誰も彼らのBOSSに会ったことがない。
この仲田社長は70歳を超えているという説もあれば、女性だという説もある。しかし、なつきの古参メンバー以外で、この人物の真の姿を見た者はほとんどいない。