林富岡のその「出ていけ」という言葉に、鈴木末子の顔は真っ青になった。
彼女は自分と林富岡の間にもう和解の余地がないことを、ようやく理解した。以前の彼女の思い通りになる男はもういない。今の林富岡は、彼女に対して極度の嫌悪感を抱いている。
そして今日の裁判で、もし彼女が勝てなければ、財産どころか、自由さえも失うかもしれない。
心の底からの恐怖で鈴木末子は思わず拳を握りしめ、高額で雇った弁護士の方を見て、「今日の勝算はどうですか?」と尋ねた。
「それは...」弁護士は結城財閥の弁護団を見て、少し困った様子で「全力を尽くします」と答えた。
鈴木末子は弁護士のその言葉を聞いて、心が冷え込んだ。傍聴席の一角に目を向けた。
司法制服を着た黒くて痩せた男が帽子を被って頭を下げ、林富岡の方向へ歩いていった。
鈴木末子は密かに感情を抑え、顔を上げると涙を流しながら「富岡さん、私たち十年の夫婦がこんな風になってしまうなんて」と言った。
林富岡は体を硬くし、何も言わなかった。
鈴木末子はそれを見て、突然前に出て林富岡の袖を掴んだ。「富岡さん、私が謝ります。最後にもう一度だけ許してくれませんか?」
林富岡の側の警備員がすぐに鈴木末子を止めようとしたが、彼女は手を離さず、林富岡に執着し続けた。
「ふん」夏川清美は、この時になっても鈴木末子が諦めないことに呆れた。
前にいた林富岡は夏川清美のその一声を聞いて、心が刺されたように感じ、鈴木末子を振り払って「もうこうなった以上、私に許しを乞うのは無駄だ」と言った。
「富岡さん...」
もみ合いの中、先ほどの黒くて痩せた影が突然二人の方へ向かってきた。
夏川清美は相手を一目見て眉をひそめ、急いで「健二さん!」と叫んだ。
同時に、制服を着た男がどこからか光る短刀を取り出し、林富岡の胸めがけて突き刺そうとした。
「きゃあああ!」鈴木末子は驚いたふりをして叫び、体を後ろに引きながら、横にいた警備員を転ばせた。
林富岡は目を見開き、大きな恐怖を感じた。先日、自分は死ぬと思っていたのに、その衰えた体はなんとか持ちこたえた。今日こそ鈴木末子と離婚して、残された資産を取り戻し、この女に法的な制裁を与えようと決意したのに、まさか...
ふん!
林富岡は苦笑い、胸に痛みを感じながら目を閉じた。結局、娘のために何もできなかった!