法廷の外。
林富岡は夏川清美を見かけ、彼女の後ろには結城陽祐の専属ボディーガードがついていた。躊躇いながら近づき、「清美...」
夏川清美は林富岡の方を振り向いた。彼はスーツの下に病院の患者服を着ており、顔色は青白く疲れ果てた様子で、自分が生まれ変わった時の成功した実業家の姿は微塵もなかった。複雑な心境ながら、いつもの冷たい声で「何か用?」と言った。
「清美、お父さんを許してくれるかな?」林富岡は恐る恐る尋ねた。
夏川清美はそれを聞いて悲しい気持ちになり、目の前で随分と老けた男を見つめながら「すみません、私には彼女の代わりはできません」と答えた。
言い終わると、夏川清美は車に乗り込んだ。
林富岡の体は少し硬くなり、思わず夏川清美を掴もうとしたが空を切った。空っぽの手のひらを見下ろし、再び顔を上げた時には、夏川清美の乗った車はすでにエンジンをかけ、すぐに視界から消えていった。
林富岡を送り届ける担当の看護師が近づいてきて、「林さん、お車はあちらです」と声をかけた。
「ああ」林富岡は鈍く返事をし、まだ夏川清美が去った方向を見つめながら、低い声で呟いた。本当に清美じゃないのか?
どうしてこうなってしまったんだろう?
しかし、林富岡の問いに答える者はいなかった。
「林さん?」看護師がもう一度優しく促した。
林富岡はようやく我に返り、うつむきながら看護師について車に乗った。
...
夏川清美の車の中。
車の中でくつろいだ様子で座っている男を見て、少し不思議に思い「いつ来たの?」と尋ねた。
「用事を済ませて、ついでに」男のくつろいだ態度以上に、結城陽祐の返事は気楽だった。
夏川清美は男をじっくりと観察し、本当?という表情を浮かべた。
「コホン、結果はどうだった?」結城陽祐はわざとらしく咳払いをして、話題を変えた。
「予想通りの結果よ。健二から報告はなかったの?」
突然名前を出された健二は即座に姿勢を正し、何も聞いていないふりをした。
「ああ、健二、報告したのか?」結城陽祐は健二を見逃さなかった。
健二は心中穏やかではなく、慎重に言葉を選んで「まだです。若奥様の許可が必要でしたので」と答えた。これは賢明な回答のはずだ、と思いながら、さっそく二少との会話画面を閉じた。