「私が嘘をつくことに何の意味があるんだ?」お爺さんは苛立った。
「ありません」夏川清美は、なぜか言い表せないような甘い気持ちになり、お爺さんの悪い性格も気にならなかった。
夏川お爺さんはそれを見て冷ややかに鼻を鳴らした。心は大いに和らいでいたが、優しい言葉を口にすることができず、冷たく尋ねた。「これからどうするつもりだ?」
その言葉に、夏川清美の気持ちは一気に底に落ちた。「たぶん...この身分のまま一生を過ごすことになるでしょう」
彼女の言葉は、お爺さんの気分も悪くさせ、沈んで黙り込んでしまった。
「そんな複雑なことは話さないでおきましょう。荷物を取ってきます」夏川清美はそう言うと、急いで中庭に箱を取りに行った。自分の目が赤くなっているのをお爺さんに見られないようにするためだった。
以前のお爺さんは短気で、彼女は無口な性格で、少しでも気に入らないことがあれば、二人は対立していた。その頃は、お爺さんが年を取っているとは思わず、ただの意地悪な老人だと思っていた。しかし今は、違う身分で年も若くなったのに、むしろこの人が年老いて孤独で、意地悪だけど可哀想だと感じるようになった。
夏川お爺さんは怒りながら付いてきた。「さっきこの箱は誰が持ってこさせたって言ってた?」
「ああ、加藤院長です」夏川清美は静かに答え、その名前を口にしながら、彼女に向かって歩いてくる結城陽祐を警戒するように見た。
結城陽祐が爆発する前に、お爺さんの方が先に爆発した。「あいつが持ってこいと言ったから持ってきたのか。お前はバカか?あんなやつが何者だと思ってるんだ!」
夏川清美は「...」
まさに歩く火薬庫だな。
夏川清美は、お爺さんが先輩にそんなに怒っている理由を知っていた。彼女は当時、先輩のために信州市の誠愛病院に行き、最後は急死と診断された。誰であれ、彼女のことを気にかける人なら、先輩を憎むだろう。
しかし以前なら、すぐに先輩を弁護し、これは全て先輩のせいではないと説明したはずだった。だが今は知らず知らずのうちに心の天秤が結城陽祐側に傾き、先輩に対するフィルターも以前ほど厚くなくなっていた。さらに、今でも自分の死に疑問を持っていたため、ただ軽く「加藤院長も善意で、夏川先生の物だと思って、お爺さんに届けてくれただけです」と答えた。