夏川清美は困惑していた。
彼女はこの男が故意にやっているのだと感じたが、証拠がなかった。
しかし、傍らの結城陽祐は彼女を見逃さず、夏川清美に背を向けて唇の端を上げ、「だから、さっき何を考えていたんだ?」
「何でもないわ」夏川清美は慌てて否定した。
「ふーん、じゃあなぜ顔が赤いんだ」結城陽祐は突然横を向いて彼女を見た。
夏川清美は片手で頬に触れ、「そう?お風呂上がりだからかしら、まだ少し熱いのかも」
しかし、そう言わなければよかった。言った途端にさらに気まずくなった。
まるで相手に何かを暗示しているかのように。
人の思考というのは、一度ある方向に傾くと、もう戻すことができなくなるものだ。
夏川清美は心の中で自分を責めた。
「へぇ」結城陽祐は意味深な声を出した。
夏川清美の耳には、まるで「言い訳を続けろ」と言っているように聞こえた。
夏川清美は「...動かないで、もうすぐ終わるから」と言った。
「うん」結城陽祐は今度は素直に返事をしたが、その直後、夏川清美が薬を塗る手が彼の肌に触れた時、その柔らかく滑らかな感触に、彼の体は一瞬硬くなった。湖の中での胸元の感触を思い出し、耳たぶまでピンク色に染まっていった。
薬を塗りながら、夏川清美は男の体温を感じ、心配になって「湖で長く浸かりすぎて熱が出たんじゃない?」
そう言いながら、手のひらで結城陽祐の額の温度を確かめた。
結城陽祐は自分が妄想していることを悟られたくなく、夏川清美の先ほどの言葉に便乗して「ああ、俺も風呂上がりだから、少し熱いんだ」
ドキッ!
一瞬、夏川清美は何かに打たれたような気がした。
彼女は自分の先ほどの言葉が単なる言い訳で、本当の顔の熱さは隣にいる男性のせいだということをよく分かっていた。でも彼がそう言うということは、もしかして自分のせい?
二人きりの部屋は一気に妖しい雰囲気に包まれ、お互いの呼吸音だけが聞こえていた。
夏川清美はこの状況がまずいと感じたが、逆に藤堂さんの言葉が頭に浮かんできた。「あなたたちには子供もいるんだから、夫婦生活を送るのは当然よ。男性を飢えさせてはいけないわ」
「はぁ、あの...薬は塗り終わったわ。そういえば藤堂さんが今夜は木村久美の面倒を見に小さな館に行くって言ってたから、私も戻らないと」言い終わるや否や、夏川清美は逃げ出そうとした。