加藤迅が上着で夏川清美を包み込もうとした瞬間、後ろ首に痛みを感じた。
夏川清美は彼を助けようともがいたが、加藤迅の体が彼女の上に覆いかぶさり、身動きが取れなくなった。
そして、先ほど病気を装って彼女を誘い出した中年男が気を失った男性従業員を引っ張り上げ、「このバカ野郎」と低く呪うと、夏川清美の上にいる加藤迅を見て、「まあ、加藤院長なら、ただのホストよりずっと効果的だろうな」と言った。
そう言うと、男は従業員を引きずって部屋を出て行った。
ドアが閉まった瞬間、夏川清美は空気中に漂う奇妙な香りに敏感に気付いた。
香りは強くなかったが、まるで火のように、彼女の体内に仕込まれていた薬の種を燃え上がらせた。
夏川清美は事態の深刻さを悟った。
神崎裕美は誰かに利用されていたようだ。