第589話 これからは久美をよろしく

コンコン、コンコン、コンコン……

加藤迅と夏川清美は動かず、外の人も焦らず、同じリズムでゆっくりとノックし続けていた。

音は大きくなかったが、イライラさせられた。

夏川清美は眉をしかめ始め、加藤迅はそれを見て拳を握りしめた。「ドアを開けてくる」

そう言って加藤迅は立ち上がった。

夏川清美は眉をひそめながら、先輩の話を聞いて、自分が以前結城陽祐を好きだったかもしれないことを知り、しかも振られたことで、結城陽祐に対する印象は更に悪くなった。

彼女は自分が恋愛のためにそこまで卑屈になれるとは信じられなかった。

だからこそ、この恋愛の真実性と、彼らが付き合っていた理由にも疑問を抱くようになった。

ドアが開くと、加藤迅は結城陽祐の妖艶な顔と向き合った。「二少爺、また何をしに来たんだ？」

結城陽祐は彼を完全に無視し、後ろに手を振ると、立花雅はすぐに木村久美を抱いて入ってきた。神木彰は木村久美のすべての持ち物とおもちゃを持って続いた。

加藤迅は焦った。「結城陽祐、ここは京都じゃない。お前は本当に好き勝手やれると思ってるのか？」

「俺はお前ほどじゃない。何を慌てているんだ」結城陽祐は加藤迅に落ち着くようなジェスチャーをし、彼の前に立ちはだかって、後ろの二人に再び手を振った。

二人は急いで入ってきた。

結城陽祐は佐藤清美の嫌悪の表情を見て、心が痛んだが、表情には出さず、立花雅を指さして、「彼女に渡して」と言った。

立花雅はすぐに前に出て、木村久美を夏川清美の腕の中に押し込もうとした。

夏川清美は立花雅を避けた。「何をするの！」

「佐藤清美……いいえ、若奥様、木村久美はずっとママを求めて泣いていて、私たちにはどうすることもできませんでした。ご存じの通り、彼はあなたを認識してからずっとあなたを探していて、今は雲おばさんが入院してしまって、あなたがあちらに行かないなら、私一人では彼の面倒を見きれません。お願いします」立花雅は言い終わると、とにかく木村久美を夏川清美の腕の中に押し込んだ。

夏川清美は子供を立花雅に返そうとしたが、木村久美は彼女の襟をつかんで、「ママ、抱っこ、ママ、抱っこ、抱っこ」と言った。