第590話 彼女は熊熊を可愛がるのに私を可愛がらない

結城陽祐は3階のバルコニーに座り、双眼鏡を手に持っていた。

神木彰は彼を見て言葉に詰まった。「二少様、彼らは1階にいるはずですが。」

「彼らを見たいと言ったか？」結城陽祐は不機嫌そうに振り向いて尋ねた。

神木彰「……」

「雲おばさんには伝えたか？」結城陽祐は振り向きもせずに尋ねた。

「はい、すぐに退院しようとしましたが、私たちが止めました。あなたの手配を伝えると、おとなしく入院して、若奥様を待つことを約束しました。」神木彰は急いで答えた。

結城陽祐は頷き、双眼鏡のレンズを再度調整したが、角度と階層の関係で中を覗くことはできなかった。

少し憂鬱そうに双眼鏡を下ろし、「今、彼らは何をしているだろうな？」

神木彰「……」彼らを見たくないと言ったばかりじゃないですか？

「おそらく木村久美の世話をしているでしょう。」心の中で文句を言いながらも、神木彰は答えないわけにはいかなかった。

「ああ。」結城陽祐は鬱々とした声で応え、教会での夏川清美の言葉を思い出した。「俺はどんなタイプだと思う？」

神木彰は身震いした。これは命がけの質問だ。健二はどこだ？健二はどこだ？なぜ健二じゃないんだ！

「あなたは完璧なタイプです。」神木彰は必死に落ち着きを保ち、自分の首が繋がっていることを願った。

しかし次の瞬間、結城陽祐は怒り出した。「俺がこんなに完璧なら、なぜ彼女は俺のことを好きにならないんだ！」

「若奥様は催眠で記憶を失くしているだけです。記憶が戻れば、必ずあなたのことを好きになります。」神木彰はようやく健二兄弟の苦労を理解した。

「つまり、俺の個人的な魅力ではなく、記憶だけが頼りだということか？」結城陽祐はさらに不機嫌になった。

神木彰「……」助けて！

「もちろんそうではありません。若奥様は一度目にあなたを愛したのですから、二度目も必ず愛するはずです。」神木彰は言い終わって自分の偽善さを感じた。若奥様は既に他の男性と結婚しようとしているのに。

結城陽祐はそれを聞いて少し満足したようだったが、神木彰を放す気配はなかった。「木村久美と俺、どちらの魅力が大きいと思う？」

神木彰は目を丸くした。

結城財閥の二少様が息子と張り合うなんて、何の意味があるんでしょうか？