夏川清美は最後にやはり首を振った。
夏美さんは何か言おうとしたが、夏川清美の憔悴した顔を見て、最近清美から離れると黙り込む加藤迅のことを思い出し、軽くため息をつきながらメイクアップアーティストに化粧を頼んだ。
夏川清美は目を閉じ、心は沈んでいた。
一時間後、夏川清美の化粧が完成した。
メイクは彼女の顔の疲れを隠したが、全身から漂う憔悴感は隠せず、花嫁としての喜びが全く感じられなかった。
たった一週間の違いなのに、夏川清美の心境は全く異なっていた。
最初は心に解けない疑問があったものの、先輩を十年間好きだったことで、二人が結婚の殿堂に入れることは貴重な幸せだと思い、結婚式にも期待を抱いていた。
しかし今日の夏川清美は、どうしても喜べなかった。
ついに願いが叶うはずなのに、先輩をあれほど長年好きだったのに、少女時代に二人の結婚式を夢見たこともあったのに、いざという時になって頭の中は別の顔でいっぱいで、なぜなのかさえわからなかった。
「清美ちゃん、できたわ、とても綺麗よ」夏美さんは、鏡の中の自分を見つめて呆然としている夏川清美に優しく声をかけた。
夏川清美はようやく我に返り、「ああ、うん」と答えた。
「じゃあ、行きましょうか?」夏美さんは、ぼんやりとした夏川清美に慎重に声をかけた。
夏川清美は頷いた。事がここまで来てしまえば、もう引き返すことはできないようだった。おそらく木村久美が去れば、徐々に気持ちも落ち着くだろう。
思い出せない人生は、そもと彼女の人生ではないのだから。
そして二つの顔を持つあの男も、彼女の男ではないのだから。
そう考えると、夏川清美の表情は少し晴れやかになり、鏡の中の自分を見上げた。
今日着ているのはウェディングドレスではなく、赤いチャイナドレスだった。生地は上質で、とても美しく着こなせていた。ヨーロッパの小国でこんなに素晴らしいチャイナドレスをオーダーメイドできたことは、先輩がこの結婚式にどれほど心血を注いだかを物語っていた。
夏川清美は頭の中の場違いな考えを振り払おうと努め、夏美さんについて部屋を出た。
加藤迅は特注の黒いスーツを着て、もともと優れた容姿をさらに儒雅で格好良く引き立てていた。夏川清美を見て少し驚き、瞳の奥に隠しきれない感動を浮かべ、思わず前に進み出て「清美…」と呼びかけた。