第599章 彼は本当に彼女を抱きしめたかった

結城陽祐は夏川清美の表情を見て、心が痛んだ。

彼は知っていた。たった一ヶ月の間に、記憶を失った佐藤清美は木村久美と親密な関係を築いていた。しかし、断ち切ることを決めた以上、彼女自身の幸せを追求させるべきだ。一時的に木村久美と離れがたい気持ちはあるだろうが、長い目で見れば、彼女はより幸せになれるはずだ。

「先ほどは私が軽率でした。夏川さん、申し訳ありません」夏川清美が呆然と自分を見つめているのを見て、結城陽祐の心は痛みを覚えたが、心にもない言葉を言わざるを得なかった。

夏川清美は結城陽祐が何度も「夏川さん」と呼ぶのを聞いて、顔色が一層青ざめていった。

以前は「清美」「清美」と呼ばれても何とも思わなかったが、今「夏川さん」と呼ばれるたびに、言い表せない痛みを心に感じた。