結城陽祐は夏川清美の表情を見て、心が痛んだ。
彼は知っていた。たった一ヶ月の間に、記憶を失った佐藤清美は木村久美と親密な関係を築いていた。しかし、断ち切ることを決めた以上、彼女自身の幸せを追求させるべきだ。一時的に木村久美と離れがたい気持ちはあるだろうが、長い目で見れば、彼女はより幸せになれるはずだ。
「先ほどは私が軽率でした。夏川さん、申し訳ありません」夏川清美が呆然と自分を見つめているのを見て、結城陽祐の心は痛みを覚えたが、心にもない言葉を言わざるを得なかった。
夏川清美は結城陽祐が何度も「夏川さん」と呼ぶのを聞いて、顔色が一層青ざめていった。
以前は「清美」「清美」と呼ばれても何とも思わなかったが、今「夏川さん」と呼ばれるたびに、言い表せない痛みを心に感じた。
彼が急にどうしてこんなに変わってしまったのか分からなかった。態度が大きく変わり、木村久美まで連れて行こうとする。彼女が木村久美のお母さんで、子供はお母さんから離れられないと言っていたのではないか?
しかし、口まで出かかった質問に夏川清美は突然我に返った。彼女には彼を責める資格などなかった。
最初から自分が彼の婚約者であることを認めなかったのは彼女自身だし、木村久美の母親であることを認めなかったのも彼女だった。今になって何の立場があって相手を責められるというのか?
それに、結城陽祐のような家柄の人が、本当に木村久美を彼女に任せるはずがない。この数日間、彼女があまりにも甘く、当然のように考えすぎていたのだ。
そして、あの日彼女が考えたように、結城陽祐のような男性は決して彼女の良い相手にはならない。かつての林夏美を一度捨てることができたなら、二度目も可能なはずだ。
男性の手のひら返しを目の当たりにするまで、彼の愛がどれほど深いものだと思い込んでいたことか!
「君は何も覚えていないのに、どうして最初に私を愛していたのが君ではなく他人だと分かるんだ?清美、それは公平じゃない」
午前中まで、彼のこの言葉に惑わされて心理カウンセラーとの予約をし、自分が催眠にかけられているのか、本当に彼との記憶を忘れているのか確かめようとし、真相を探ろうとしていた自分がバカだった……
ほら、これが惑わされた代償だ。