常盤巧は夏川清美が予約した心理医師だった。
病院に来る直前に夏川清美は彼と約束を取り付けていた。
「夏川さん、本当に催眠療法を受けたいのですか?あなたの話によると、催眠をかけるのは危険かもしれません」常盤先生は夏川清美を真剣な眼差しで見つめながら尋ねた。
「分かっています」夏川清美は心臓外科医だが、催眠についても多少の知識があった。もし本当に松本先生の催眠を受けていたのなら、他の医師が経路を知らないまま記憶を取り戻すための催眠をかけるのは、困難なだけでなく非常に危険だった。
しかし心の中の疑問は既に彼女の日常生活に影響を及ぼしており、このまま記憶喪失の状態を続けることはできなかった。
試さなければ、何か重要なことを見逃してしまうような気がしてならなかった。
「分かりました」常盤先生は慎重に答えた。「では、始めましょう」
同時に、立花雅は夏川清美の状況を報告した。
結城陽祐は報告を聞き終わると、ビデオ通話を開いた。広々としたオフィスが画面に映し出された。
目を閉じている夏川清美を見つめながら、彼の心臓は重く締め付けられた。
夏川清美はリクライニングチェアに横たわり、周りは静かで、時計の音だけが聞こえていた。
とても静かで、とても静か。
夏川清美は暗闇を通り抜けると、自分が小さな子供になっていることに気付いた。道路をふらふらと歩き、後ろから女性が心配そうに見ていた。突然、トラックが走ってきた。
「やめて...」夏川清美は心の中で叫んだが、次の瞬間、女性は飛び出してきて、そして血の赤い色が広がった。
小さな体で泣き崩れ、何もできなかった。その後も断片的な映像が続き、体は徐々に大きくなり、群衆の中に立っていた。周りの人々に指をさされ、それがはっきりと見えた。自分ではないと言い聞かせようとしたが、影のような苦しみは倍増していった。
ああ...
夏川清美は箱の中に閉じ込められているような感覚に陥った。必死にもがいたが、出ることができない。目の前の光景は破片となり、分娩台に横たわる自分の姿も見えた。メスが腹部を切り裂き、痛い、心が引き裂かれるような痛み、絶望的な痛み。もう生きていたくない、痛すぎる...
「止めろ!」結城陽祐は画面越しに、夏川清美の額から大粒の汗が流れ落ち、苦痛で顔が歪むのを見て、急に命令した。
常盤先生も慌てた。