第682章 それなら彼女を死なせよう

「陽祐さん、何があっても冷静になって」結城蓮は心臓が喉まで飛び出しそうだった。

結城陽祐は姉がこんな時に来るとは思わなかった。姉の焦りと心配そうな様子を見て、心の底から湧き上がった暴戾な気持ちが少し和らぎ、福田美沙紀の手を徐々に緩めた。

「ゴホッ、ゴホッ...」結城陽祐が手を放すと、福田美沙紀は床に崩れ落ち、制御できないほど激しく咳き込み始めた。年を重ねてもなお美しい顔が咳のせいで真っ赤に、そして紫色に変わっていった。

「陽祐さん、一体何があったの?」フランスから帰ってきたばかりの結城蓮には、いつも冷静で自制心のある弟が実の母親に手を上げるような事態が全く理解できなかった。

「彼女が清美を誘拐させた」

その言葉を発した時の結城陽祐の目の冷たさに、結城蓮は身震いし、思わず床に倒れている母親を見た。「お母さん、どうしてこんな愚かなことを!」