11- 追跡

（3年後）

「さあ、みんな。急がないと。この注文は2時間後には厨房から出さないといけないわ」マリッサは大きな厨房で手を叩きながら、コンロの前で忙しく働くシェフたちを見回った。

「アレクサンダーズ・ホームスタイル・ケータリング」は、マリッサが新設された多国籍企業から大きな注文を獲得した2年前から急成長した。

その会社は従業員向けの社内食堂の運営も依頼してきたが、マリッサとオーナーは費用面で折り合いがつかず、マリッサはその案を断念した。

アレクサンダーという名前は、かつてラファエルが将来の息子につけようと考えていた名前だった。マリッサはその名前を気に入り、ずっと前からいつか使おうと思っていた。

人生で苦労して学んだことの一つは、決して妥協してはいけないということだった。そして彼女は子供たちにもそれを教えていた。

この3年間、フリントじいさんとソフィアは彼女の大きな支えとなっていた。ソフィアは今でも様々な製薬会社のフリーランス仕事を続けていたが、会社から提供される特典は全て断っていた。年1回の社員旅行もその一つだった。

なぜか？

友人に自分が必要だと分かっていたからだ。マリッサは一人で赤ちゃんを育てることはできなかった。

「マリッサさん」従業員の一人であるアカリがボウルを持って近づいてきた。「このガーリックチキンを味見してもらえますか？シトラがソースを足したいと言っているんですが、先にあなたに確認したくて」

マリッサはアカリから受け取ったボウルからスプーン一杯のソースを口に運んだ。「うーん...」彼女は目を閉じ、少し唸った。「塩を少し足す必要があるわね...」そして眉をひそめ、首を振った。「でも、ソースはもう足さないで」

マリッサは仕事の電話に気を取られていた。

アカリが頷いて向きを変えようとした時、何かが彼女の足に当たった。「あら...見てごらん」

彼女は膝をつき、口にロリポップをくわえた可愛らしい3歳の女の子と向き合った。「アリエル、ここで何してるの？この厨房に入っちゃいけないって知ってるでしょう」

マリッサはこのルールについては非常に厳しかった。調理中の厨房への子供の立ち入り禁止。

「アカリさん！何か甘いものを作ってくれる？」

「まあ。何が食べたいの、アリエル？」小さなアリエルは小さな肩をすくめ、口を尖らせた。

「イチゴが食べたい？」アカリは女の子の髪を愛情込めて撫でながらクスッと笑った。

「もちろんよ、かわいい子」彼女は大きな業務用冷蔵庫からイチゴの大きなボウルを取り出し、もう片方の腕で女の子を抱き上げた。「お母さんに見つかって心臓発作を起こす前に、あなたの部屋に戻りましょう」

しかし、厨房を出ようとした瞬間、後ろから厳しい声が聞こえた。「アリエル・アーロン。ここで何をしているの？今は兄弟と一緒にお昼寝の時間でしょう？」

アカリは目を閉じた。マリッサは寛容で理解のある上司であり、愛情深い母親だったが、ママジラモードに入ると誰も止められなかった。

「ママ！」小さなアリエルはアカリの腕の中でもぞもぞし、降りてマリッサの元へ走っていった。

「どうしてここにいるの、お嬢さん？」マリッサは子供の顔についていない食べかすを拭き取ってから、抱き上げた。

「アカリさんに甘いものを作ってもらいたかったの、ママ...見て、何を作ってくれたか！」彼女は嬉しそうに叫んだ。

マリッサはアカリが持っているボウルを見ようと眉をひそめた。

「イチゴ？」そして理解が顔に浮かび、思わず笑みがこぼれた。「アカリ、あなた本当にイチゴを料理したの？」

アカリは笑いを押し殺し、小さな女の子にウインクした。「もちろんです。この可愛い子たちのためなら何でも！」

「ここに置いていって。あなたは子供たちの様子を見ていてちょうだい」マリッサは従業員の手からボウルを受け取り、立ち去ろうとした。

アリエルが一人でこれを計画したとは思えなかった。他に誰かが背後にいるはずだ。

娘とイチゴのボウルのバランスを取りながら階段を上り始めた。「ママ、私が持てるよ」

「分かってるわ、ハニー」マリッサは娘の頬にキスをした。「ママは共犯者たちに会うのが楽しみなの」

上階に行ってドアを開けると、フリントじいさんが3歳のアレクサンダーとアビゲイルと一緒に毛布の下に隠れているのが見つかった。

「それで、妹を甘いものを取りに行かせたの？」彼女は厳しい口調で尋ねた。フリントは子供たちと一緒にクスクス笑い始めた。この間ずっと、彼は彼らの良き友人だった。

彼はソフィアの祖父だったが、マリッサの父親であり、メンターにもなれた。彼は子供たちの友人であり、共犯者でもあった。

ソフィアとフリントがいなかったら、彼女は彼らなしでどうしていたか分からなかった。

「ママ！私たちはただアカリおばさんに手作りデザートを頼んでもらおうと思っただけよ」アビゲイルは顔を手で覆い、本を読むのに夢中なアレクサンダーの方をちらりと見た。

「ほら？だからイチゴを持ってきたの...」アリエルは興奮して見せびらかし、兄弟たちは目を転がした。

マリッサは彼らの無邪気なコミュニケーションに笑みを抑えようとした。

「坊や！何を読んでるの？」

「フリントじいさんが自分の小さな図書館から持ってきた百科事典だよ。僕のマックブックはまだ直ってないから、時間つぶしに読んでるんだ」彼は真面目な口調で言い、本に視線を戻した。

マリッサは唇を曲げ、子供たちを見た。「誰かケータリングの買い物に付き合ってくれる？スーパーに行かないといけないの」

予想通り、アレクサンダーとアビゲイルはあまり乗り気ではなかったが、アリエルはいつものように準備万端だった。彼女はベッドの上で飛び跳ねて喜び始め、マリッサは彼女をそこから降ろして地面に立たせなければならなかった。「行きましょう、お嬢さん。遅れるわけにはいかないの。今の注文が終わったら次の注文をすぐに始めないといけないの」

フリントは立ち上がり、アビゲイルと一緒に作ろうとしていたチョコレートソースにイチゴを浸すために準備を始めた。

部屋を出る前に、マリッサは子供たちのところへ行って額にキスをした。「おじいちゃんに良い子にするのよ。いい？」

アレクサンダーとアビゲイルは頷き、マリッサは彼らを胸に抱きしめたい衝動に駆られた。3年前、彼女は彼らを失いそうになった。

しかし彼らはとても強く、あらゆる困難に打ち勝ち、医師たちを驚かせ、数週間で人工呼吸器から離脱することができた。アビゲイルは心臓の問題で今でも弱かったが、アレクサンダーとアリエルは元気に過ごしていた。

アビゲイルは3人の中で最年少であるだけでなく、最も優しく、最も繊細な子供だった。心臓の問題のため、走り回ったり、階段を頻繁に使うことは禁止されていた。兄弟たちもそれを知っており、2人の厳しい看守のように彼女を見守っていた。

***

マリッサはトマトソースの缶を探しながら通路を歩いていた。

「商品のほとんどを移動させたみたいね...」彼女は独り言を言い、スーパーの制服を着た男性に声をかけた。「すみません、ミスター...商品の配置を変えましたか？トマトの缶が見つからないんですが」

男性はすぐに彼女を手伝いに来た。通常、マリッサは自家製のソースを好んで作っていたが、この特別な注文では特定のメーカーのソースが必要だった。

「奥様、セール品として出口付近に移動させてあります」彼は出口の方向に手を振って示すと、アリエルがカートから降ろしてほしいとせがんだ。

子供たちは、スーパーに来る時は自由に歩き回ることは許されないことを知っていた。

「ダメよ、スイートハート。おとなしく座っていて。ママは買い物に集中しないといけないの」彼女はアリエルの頬を撫で、カートに品物を入れ続けた。

「ロリポップが欲しいだけなの、ママ」

「教えてくれれば買ってあげるわ」彼女は通路からマッシュルームの缶を選びながら忙しそうに言った。

「でも、ママ。味も選びたいの。アレクサンダーはオレンジ味が好きで、アビゲイルはグアバ味が好きで、私は全部試してみたいの」マリッサは娘の駄々をこねる声を聞きながら、深いため息をついた。

「見つけたら教えてね。そしたら取りに行っていいわよ」彼女は笑顔で言うと、アリエルは有頂天になった。

30分後、マリッサはようやく娘に子供向けのお菓子コーナーに行くことを許可した。

混雑していなかったので、安全な距離から見守ることにした。できるだけ早くレジに行かなければならなかった。今日は混んでいなかったので、アリエルに許可を出したのだ。

アリエルが急いで様々な味のロリポップを選び、小さな手に全部抱えようとしている姿に微笑んだ。小さな女の子が振り向こうとした時、誰かにぶつかった。

背の高い男性が散らばったロリポップを見下ろしてから、アリエルに目を向けた。「ごめんね」

彼は屈んで小さな女の子が拾うのを手伝い始め、マリッサはカートを置いて彼らの元に向かった。

「申し訳ありません。彼女があまりに興奮していて...」男性は顔を上げ、体が固まったように見えたが、マリッサはまったく気付かなかった。「アリエル、このお兄さんに謝りなさい」

男性は小さな笑みを浮かべて首を振った。「大丈夫です。私の不注意でした」その後、マリッサは彼にあまり注意を払わなかった。

通常、彼女は男性全般を避けていた。彼らの存在が不安を引き起こすからだった。

幸いにもレジは空いていたので、アリエルとカートを引っ張るように急いで会計を済ませて出ようとした。

「奥様」同じ男性が彼女の後ろに立っていた。「失礼ですが、この近くにお住まいですか？」

マリッサはすぐに無表情になった。

「ふーん」彼女は荷物を拾い上げ、返事もせずに外へ向かった。男性も慌てているようで、マリッサは急いで車に乗り込み、走り去った。

彼女はこの男性を初めて見たが、居住地を尋ねられた時に不快感を覚えた。

ジョセフは店から出てきて、辺りを見回した。近くの壁を殴り、急いで電話に番号を打ち込んだ。

「ラファエル！兄弟！見ろよ。俺はずっとカンダートンに来いって言ってたのに、お前は聞かなかった。誰に会ったと思う？間違いなくマリッサだった。小さな女の子を連れていた。できるだけ早く来てくれ。いいな？」

その後、彼は電話をポケットに滑り込ませた。ラファエルは以前マリッサの写真を何枚か見せていて、一目で彼女だと分かった。

マリッサを探す捜索は、ほぼ終わりに近づいているようだった。