たった今話した人物は、柴田おじい様と柴田の父も知っていた。
柴田家とよく取引のある吉田家の後継者、吉田東雄だった。
端正で色気のある容姿で、外では噂も絶えなかった。
しかし、吉田東雄の隣にいるもう一人の方が、さらに人々の目を引いた。
その時。
灰原優歌が目を上げると、その淡い色の瞳と視線が合い、すぐに固まってしまった。
これは彼女が初めて久保時渡のこんなにフォーマルな姿を見た時だった。
高級な黒のオーダーメイドスーツを着こなし、より一層彼の背の高さと気品が際立っていた。
深く冷たい目元には、何気ない距離感が漂っていた。
そんな折。
男は何気なく少女の呆然とした様子を見て、唇の端に軽薄でだらしない笑みを浮かべた。
同時に。
吉田東雄が紹介を始めた。「そうそう。柴田大旦那、こちらは私の友人の久保時渡です。」
「柴田大旦那、お噂は伺っております。」
久保時渡が微笑んだ。
「久保姓……」
柴田おじい様はすぐに気づき、目に信じられない色を浮かべた。「あなたは久保集団の……」
「よろしければ、時渡とお呼びください。」
その言葉に、隣の吉田東雄も思わず久保時渡を見つめた。
渡様はいつからこんなに親しみやすくなったのか??
業界では、年配のパートナーとよく出会うが、渡様が親しみを持たせる機会を与えることはめったにない。
「ええ、どうぞお座りください。今日は家族の集まりで、特別なおもてなしの準備ができていなくて申し訳ありません。」柴田おじい様は笑顔で言った。
しかし、柴田おじい様も不思議に思った。
これまで吉田家とは特に付き合いがなかったのに、なぜ突然訪ねてきたのだろう??
しかも、久保集団の新社長まで会えるとは!?
「柴田大旦那が私の厚かましさを許してくださるなら幸いです。」
吉田東雄は明らかに話上手で、雰囲気を和ませ始めた。
一方、灰原優歌も隠すことなく久保時渡を見つめていた。彼がここに現れるとは予想もしていなかった。
予想外だったのは、灰原優歌の他に、久保時渡に一度会ったことのある柴田浪もいた。
これは以前、彼の優歌を連れ去った男ではないか??!
ただし。
柴田浪も表に出さなかった。優歌に何か問題が起きることを恐れたからだ。
突然。
柴田の母が笑顔で尋ねた。「久保さんはご結婚されているのですか?」