たった今話した人物は、柴田おじい様と柴田の父も知っていた。
柴田家とよく取引のある吉田家の後継者、吉田東雄だった。
端正で色気のある容姿で、外では噂も絶えなかった。
しかし、吉田東雄の隣にいるもう一人の方が、さらに人々の目を引いた。
その時。
灰原優歌が目を上げると、その淡い色の瞳と視線が合い、すぐに固まってしまった。
これは彼女が初めて久保時渡のこんなにフォーマルな姿を見た時だった。
高級な黒のオーダーメイドスーツを着こなし、より一層彼の背の高さと気品が際立っていた。
深く冷たい目元には、何気ない距離感が漂っていた。
そんな折。
男は何気なく少女の呆然とした様子を見て、唇の端に軽薄でだらしない笑みを浮かべた。
同時に。
吉田東雄が紹介を始めた。「そうそう。柴田大旦那、こちらは私の友人の久保時渡です。」