第63章 時渡兄さん

灰原優歌がまだ箸を持ち上げる間もないうちに、そんな言葉が聞こえてきた。

その後。

男性は緩やかな口調で、怠惰な語尾で、彼女の鼓膜を刺激するような艶めかしい声で言った。「でも、兄さんはやっぱり優歌の方が好きだな。」

その瞬間。

全ての視線が彼女に集中し、驚きから信じられない表情へと変わった。

どういうこと??

この二人は知り合いなの!?

突然。

柴田裕香の顔色が青ざめ、耐え難い表情で、思わず灰原優歌の方を見た。

灰原優歌がどうしてこんな男性を知っているの??

先ほど柴田おじい様が久保という姓を口にした時、彼女は友人が久保家のことを話していたのを思い出した。

特に現在の久保氏の社長、久保時渡のことを。

今は柴田家の令嬢とはいえ、自分とこの男性との間には一定の差があることを知っていた。