第65章 私もあなたを引き戻してみせます

灰原優歌は彼を見つめ、「方山先生はおじい様を百パーセント治せますか？」と尋ねた。

柴田の父は言葉に詰まった。

方山賢一は脳科の分野で有名な医師ではあったが、百パーセントの治癒は保証できなかった。

以前、方山先生は柴田おじい様の病歴を見た時も、できるだけ長く生きられるようにすると言っただけだった。

「もし、方山先生ができないなら、なぜ他の医師に試させないのですか？」

灰原優歌は落ち着いた様子で彼を見つめた。

「灰原優歌、おじい様の命を軽く見るな。

お前にどんな医師が分かるというんだ？医師免許も持っていない素人を方山先生と比べようとしているのか？」

「もういい！」

柴田おじい様は青ざめた顔で、冷たく彼らを見渡した。

柴田の母が口を動かしたものの、何も言えなかった時、柴田おじい様は執事に病歴を持ってくるよう命じた。

柴田おじい様は病歴を受け取り、灰原優歌の前まで歩み寄って彼女に渡し、彼女の頭を撫でた。

おじい様は慈愛に満ちた表情で、「優歌は孝行な子だ。おじいさんは分かっているよ」と言った。

灰原優歌は一瞬驚いたが、病歴を受け取り、唇の端がゆっくりと上がった。「おじい様、ご安心ください」

彼女の美しい瞳に暗い光が走ったが、口調は冗談めいていた。

「たとえ成功率が一パーセントでも、冥土の土産になろうとも、私がおじい様を連れ戻してみせます」

この言葉を真に受ける人は少なかった。

柴田おじい様は目に涙を浮かべ、再び灰原優歌を抱きしめた。

この年齢になって、死は怖くなかった。

唯一の心配は、優歌が幸せに暮らせるかどうかだった。

おじい様は笑顔を浮かべ、声の震えを隠しながら言った。「そうだな。おじいさんはまだ優歌の結婚も見ていないし、まだ逝きたくないよ」

その言葉を聞いて。

吉田東雄は思わず隣の久保時渡を見た。

久保時渡が傍らに立ち、骨ばった指でネクタイを苛立たしげに引っ張り、喉仏が動くのが見えた。

普段は物憂げな淡い瞳に、冷たさと理解しがたい感情が宿り、その雰囲気はますます圧迫的になった。

久保時渡は灰原優歌が家族から愛されていないのではないかと推測していた。そうでなければ、見知らぬ男の首に抱きつき、実の兄と帰るよりも連れて行ってほしいと頼むはずがない。

しかし、柴田家の状況は彼の想像以上に悪かった。