第67章 お兄さんを見つめて何を呆然としているの?

「こちらです。」

灰原優歌が帽子を脱ぐ暇もないうちに、男の怠惰な声が聞こえた。

「優歌、お兄さんの腰を触るのはやめなさい。」

「……」

灰原優歌は帽子を脱ぎ、何か言おうとしたが、初めてこんなに近くで男の軽薄な瞳と目が合った。

彼女は男の目が美しいことを知っていた。上がった目尻が魅力的で、本来なら情感のこもった目つきのはずだった。しかし、淡い色の瞳には、無関心な冷たさだけが残っていた。

まるで冷たく高く掛かる月のように。

一瞬で、灰原優歌の怒りは消えた。

この禁欲的な腹黒メガネは、完全に彼女の好みど真ん中だった。

しかし。

久保時渡は目の前の少女を見つめ、怒りを含んだ微笑みから次第に落ち着きを取り戻し、隠すことなく彼を見つめる様子を観察した。

率直で大胆だった。

「お兄さんを見てぼーっとして、どうしたの?」

久保時渡は怠惰に笑い、玉のように美しい指で彼女の顎を軽く掻いた。まるで猫をからかうかのように。

灰原優歌が何か言おうとした時、後ろから柴田おじい様の声が聞こえた。

「お前たち、お前たちは皆、私を死なせる気か!」

灰原優歌は反射的に振り向き、柴田浪が柴田おじい様を支えて出てくるのを見た。

おじい様の顔色はあまり良くなかった。

その様子を見て、灰原優歌が近寄ろうとしたが、久保時渡に引き止められた。

「優歌、お兄さんはおじいさんと少し話があるんだ。車で待っていてくれる?」

灰原優歌は一瞬戸惑い、状況を見回して、さっき久保時渡が意図的に柴田裕香たちの様子を見せたくなかったのだと気づいた。

彼女は思いを隠し、久保時渡から渡された鍵を受け取った。

……

しばらくして。

大広間で、柴田おじい様は険しい表情で柴田夫婦を叱り始めた。

「これはいったいどういうことだ?!優歌はお前たちの娘なのに、公表もせずにいたのか??

この件を私に隠していたのか?私がどうせ一年か二年しか生きられないと思っているのか?!!」

これを聞いて、柴田の父は慌てた様子で。

「お父さん、そうではありません。」

「そうでないなら、どういうことだ!?私の実の孫娘を、お前たちはこんな扱いをするのか!」

さっき二人が外に出て、柴田裕香を慌てて慰めていた様子を思い出し、柴田おじい様は二人を追い出したくなった。