第166章 私は灰原優歌の兄だけ

「そうですね、柴田裕香は天の寵児だから、親が呼び出されるなんてありえないでしょう。それは灰原優歌だけの待遇ですね」

「そうよね、誰だってもっと賢くて優秀な妹の方が好きでしょう?」

……

これらの言葉を聞いて、柴田裕香の目の奥に暗い色が走り、最近の柴田裕也の態度を思い出した。

「柴田さん、私、先に見てきますね」

女子生徒は柴田裕香の表情に気付かず、そう言った。

「ええ、どうぞ」

柴田裕香は微笑んだが、女子生徒が去るとすぐに、その笑顔は消え去った。

「灰原優歌、あなたって本当にすごいわね。私をここまで追い詰めるなんて」

柴田裕香は無表情で階段を見つめ、突然笑い出した。その美しい顔が歪むほどに。

しばらくして。

みんなが我慢できずに柴田裕也の写真を撮ろうとしたとき、突然遠くから悲鳴が聞こえた。

すぐに誰かが叫んだ。

「大変だ!柴田裕香が階段から落ちた!誰か来て、早く病院に連れて行かないと!!!」

この言葉に、全員が驚愕した。同じ日にこんなことが次々と起こるなんて!

「早く、何をぼんやりしているの?先生に保護者に連絡するように言って!」

柴田裕香と仲の良かった女子生徒が、焦って柴田裕香を支えながら、みんなに怒鳴った。

「待って、柴田裕也さんがいるじゃない?柴田裕香の兄さんなんだから、病院に連れて行ってもらえばいいじゃない!」

「そうよ、早く柴田裕也さんを呼んで!」

……

その時。

多くの人々が柴田裕也を探しに殺到した。

そして、柴田裕也が3階に着いたとき、ある女子生徒が顔を赤らめ、柔らかい声で言った。

「柴田さん...柴田裕香さんが階段から落ちて、今とても深刻な状態なんです。階段のところにいるんですけど。あの...」

それを聞いて。

柴田裕也はゆっくりと目を上げた。その眉目は相変わらず美しく高慢で、人々を魅了した。

しかし次の瞬間、みんなは柴田裕也が黒いスーツのボタンを丁寧に留め、ゆっくりと言うのを見た。

「すみません、どいていただけますか?」

この態度に、話しかけた女子生徒の赤かった顔が真っ青になり、その場で固まってしまった。

それを見て、柴田裕也は女子生徒を避けて通り過ぎ、職員室を探し続けようとした。

「柴田さん!灰原優歌さんを探しているんですか?でも柴田裕香さんが怪我をしているのに、どうして...」