第167章 優歌の耳に入ったら、彼は汚れてしまう

しばらくして。

柴田裕香は目を赤くして、泣き声で言った。

「お兄ちゃん、裕香が痛いの……」

そう言って。

柴田裕香は前に進み、柴田裕也の腰に抱きつこうとした。

この光景を見た他の人たちも、心を動かされた。

きっと、柴田裕也が柴田裕香にどれほど怒っていても、女神のような妹がこんな状態なら、怒りも収まるはずだと。

しかし次の瞬間。

全員を凍りつかせる光景が現れた。

柴田裕也は柴田裕香が自分に飛びついてくるのを見ると、まるで病原菌が近づいてきたかのように、体全体が自動的に防御態勢に入った。

そして、柴田裕香が柴田裕也に抱きつく前に、柴田裕也は横に身をかわし、柴田裕香との接触を避けた。

そのため柴田裕香は、そのまま地面に倒れ込んでしまった!

見るに耐えないほど惨めで、みすぼらしい姿に……

この場面を見た全員が呆然とし、柴田裕香を助け起こすことさえ忘れていた。

「危なかった」

しばらくして、柴田裕也もほっと息をついた。

柴田裕香に触られなくて良かった。

もし触られていたら、優歌の耳に入ったら、自分は汚れてしまうところだった。

「お兄ちゃん、あなた……」

柴田裕香は転んで呆然としていたが、我に返ると、恥ずかしさと信じられない思いで柴田裕也を見つめ、顔色を変えた。

彼女は生まれてこのかた、こんな扱いを受けたことがなかった!

しかも、この人は彼女の兄なのに!!

「勝手に呼ばないでくれ。私たちの関係を誤解させる」

柴田裕也の漆黒の瞳には波風がなく、深みのある優雅な目元は冷淡さを漂わせていた。

この言葉に、皆は柴田家の事情についてますます混乱した。

関係を断たれたのは灰原優歌じゃなかったのか??それなのに柴田裕香と柴田裕也はどういう状況なんだ!??

柴田裕香はいつも家族の兄たちに可愛がられていたはずじゃないのか??

しかし目の前の状況を見ると、柴田裕也は柴田裕香が目の前で惨めに転んでも、彼女に触れることさえ拒んでいる。

知らない人が見たら、まるで柴田裕香が感染症でも患っているかのようだ。

「ママが灰原優歌のことを嫌いだから、お兄ちゃんは私がそうさせたと思ってるの?」

柴田裕香は唇を噛み、全身の痛みも気にせず、震える声で尋ねた。

柴田裕也の目の奥に秘められた感情は不明瞭で、薄い唇には微かな嘲りの色が浮かんでいた。