「その通りね」
灰原優歌は物憂げな目元で、艶やかで意気揚々としていた。「でも、私は柴田浪のファンじゃないわ」
そして、青年が反応する間もなく、彼女はゆっくりと笑いながら続けた。「だから、彼女たちはあなたに手出しできないけど、私はできるわ」
……
言葉が落ちた。
灰原優歌はノートを閉じ、そのまま外へ向かった。「おじいちゃん、食べたいものがあったら外の人に買ってもらって。私はちょっと用事があるの」
言い終わると、姿が消えた。
そのとき、外から急いで歩いてきた院長は、灰原優歌を見かけると目を輝かせた!
しかし、彼が口を開く前に、灰原優歌は何とも不気味な冷気を纏いながら、素早く彼の傍を通り過ぎた。
「彼女は...どこへ行くんだ?」技術員が我に返った時には、既に背筋が寒くなっていた。
まるで喧嘩しに行くような様子じゃないか?
「早く、早く、追いかけろ!彼女が行ってしまったら、柴田おじい様はどうするんだ?!」
院長は焦って人を押しのけ、また熱い鍋の上の蟻のように、行ったり来たりし始めた。
しかしその時。
彼は突然、傍らの内田和弘の声を聞いた。
「金井先生、どうしてここに?」
院長が振り向くと、遠くに正装した老人が見え、どこか見覚えがあるような気がした。
「柴田大旦那、この病室でしょうか?」金井雅守はネクタイを整えながら尋ねた。
「はい」
内田和弘は確かに意外だった。彼はA.M.研究所の人々と連絡を取り、柴田家に問題が起きて、研究所の助けが必要かもしれないと伝えていた。
しかし、研究所の人々が本当に助けてくれるとは思っていなかったし、まして金井先生のような大物が来るとは!!
「入っても良いでしょうか?」金井雅守は少し落ち着かない様子だった。
傍らの若者は思わず目を回しそうになった。
これは灰原さんのおじいさんであって、かつての大物のおじいさんではない。この金井翁は混乱しているのではないか?
「もちろんです!」
ずっと傍に立っていた柴田の母も、笑顔を浮かべながら言った。「金井雅守先生ですよね?!まさか公公を見に来てくださるとは思いもしませんでした。これもすべて和弘のおかげです」
同様に、柴田の母は柴田裕也たちの方を向き、自信に満ちた笑顔を浮かべた。
柴田おじい様が灰原優歌を可愛がっているからって、どうだというの?