第194章 古い家に火をつける

「久保……」

苗木おばさんが話そうとしたが、久保時渡に制止された。

何も知らない灰原優歌は、再び携帯を手に取り、画面の時間を見つめながら、物思いに耽っていた。

8時になった。

切り上げると、この男は10時になっても帰ってこない。

突然、灰原優歌は、以前久保時渡が彼女をバーから連れ出した時の気持ちが分かるようになった。

「……」

灰原優歌がノートパソコンを閉じた瞬間、清楚で気品がある男性が片膝を軽く曲げているのが目に入った。

彼の長く整った指が、何気なくシャツの襟元を緩め、その仕草は慵懒で魅惑的だった。

そのとき。

灰原優歌の視線は、男性のセクシーな喉仏にある、あのほくろに釘付けになった。

その位置にあるほくろ。

色気がありすぎる。

しばらくして、彼女はゆっくりと視線を逸らした。

灰原優歌:「お兄さん、早く帰ってきたね」

「そう?優歌が心の中で僕を罵っていると思ったのに」

久保時渡は優雅な視線を彼女に向け、愉快そうに低く笑った。

深みのある磁性的な声が鼓膜を刺激し、たまらなかった。

「そんなことないよ」

灰原優歌は顔を上げ、赤い唇を曲げて、「お兄さんが珍しく恋に落ちたのね」

「恋?」久保時渡が言った。

灰原優歌は少し考えてから、突然両手をテーブルについて、頬杖をつき、綺麗な目尻を上げて、男性の胸元をまっすぐ見つめた。

「つまり、お兄さんの体の中で、唯一人を隠せる場所よ」

その言葉を聞いて。

男性の判然としない眼差しが彼女に注がれた。しばらくすると、彼の瞳は次第に深く沈み、酔わせるような色を帯びながら、彼女をじっと見つめていた。

久保時渡は薄紅の唇を曲げ、慵懒に手を伸ばして彼女の首筋を軽く摘み、性的魅力たっぷりの低い声で言った。

挑発的で不遜な口調で、「じゃあ、火をつけたのは君かい?いたずらっ子」

この甘い優しさが、まっすぐ心に突き刺さる!

心の先端がしびれるような感覚!

この瞬間。

灰原優歌も体が固まった。

この男は、どうしてこんなにも全身から色気と魅力を放っているの??!

抑えきれずに。

灰原優歌の脳裏に、この男のベッドでの姿が浮かび、たまらなくなった……

「お兄さん、ご飯食べた?」灰原優歌は無意識に真面目な話題に変えた。

「まだだよ。家で育てている花を見に急いで帰ってきたんだ」