「久保……」
苗木おばさんが話そうとしたが、久保時渡に制止された。
何も知らない灰原優歌は、再び携帯を手に取り、画面の時間を見つめながら、物思いに耽っていた。
8時になった。
切り上げると、この男は10時になっても帰ってこない。
突然、灰原優歌は、以前久保時渡が彼女をバーから連れ出した時の気持ちが分かるようになった。
「……」
灰原優歌がノートパソコンを閉じた瞬間、清楚で気品がある男性が片膝を軽く曲げているのが目に入った。
彼の長く整った指が、何気なくシャツの襟元を緩め、その仕草は慵懒で魅惑的だった。
そのとき。
灰原優歌の視線は、男性のセクシーな喉仏にある、あのほくろに釘付けになった。
その位置にあるほくろ。
色気がありすぎる。
しばらくして、彼女はゆっくりと視線を逸らした。