久保時渡は尋ねた。「どの科目?」
「全部できない」
灰原優歌のその言葉は、自信に満ちていた。
久保時渡はずっと分かっていた。この少女はとても賢い。成績が良くないのは、基礎が弱いからかもしれない。
しかし、少女に素直に勉強させ、過去の学習を取り戻すのも簡単ではない。
「じゃあ、お兄さんが遅く帰っても大丈夫?」
久保時渡の眼差しは一層深く黒くなったが、その中には軽い冗談が漂っていた。
そして、ずっと盗み聞きしていた吉田東雄は、目の前の久保時渡がもう分からなくなりそうだった!
渡様が万年鉄樹に花が咲いたみたいだ??!
少女を冗談で煽るなんて!!?
ただ、制服スカートを着た灰原優歌を思い浮かべると、吉田東雄は渡様のこの感情が禁忌に満ちていると感じた。
灰原さんは成人してるのか??!
その時。
灰原優歌は苗木おばさんの言った言葉を思い出し、綺麗な目尻が揺れ、久保時渡が女の魅力に溺れていると思った。
そのため、吉田東雄への第一印象も自然と'ろくでなし'に下がった。
「お兄さんは外で楽しんでる?」
その言葉を聞いて、久保時渡は低く笑い、上がった目尻が人を魅了し、「何?」
「お兄さんは十時半には、必ず帰ってきてね」
灰原優歌は少し考えて、また目を細めて頬杖をつき、親切に注意した。「それと、お兄さん、道端の野花は摘まないでね」
言い終わると。
彼女は電話を切った。
……
個室で。
吉田東雄は久保時渡がまだ言い足りないことがあるようだと見て、突然何かに気付いた。
渡様が少女に電話を切られた!!
「渡様、ご覧ください。少女というのはこういうもので、ストレートなんです。二十六七の女性のような色気や機転なんてありませんよ」
吉田東雄は女性たちを抱きながら、また首筋で戯れた。
女性たちは笑いながらも、熱い視線を久保時渡に向けていた。
しかし次の瞬間。
久保時渡は脇に置いてあったスーツの上着を取り、禁欲的な長い脚で歩き出した。
「渡様?どこへ行くんですか???」
この光景を見て、吉田東雄は驚いた。「まだ会食があるじゃないですか???」
「お前が対応しろ」
言い終わると、久保時渡はドアを開け、急いで消えていく姿だけを残した。
「渡様は少女タイプがお好みなんですか?」女性の一人が吉田東雄に寄り添いながら、我慢できずに尋ねた。