A.M.に重視される人は、必ずトップを争う人たちだ。
しかし灰原優歌は、頭の良くない人間だ。今では、柴田家の兄たちに甘やかされて天狗になっている。
将来、彼女が家を潰す不肖の子になるかもしれないのに、大物と繋がりを持てるはずがない。
内田和弘は嘲笑い、自分は休息が足りないせいで妄想を始めたのかもしれないと思った。
まあいい、もう少し待とう。
せっかくA.M.計算研究所に入れたのだから。
……
別の建物の会議室にて。
十数名のメンバーは無表情で所長と主任の、人材を引き抜こうとする非道な行為を見つめていた。
「そうだ優歌、あなたが手掛けているプロジェクトは、どんな方向性なの?」金井雅守が尋ねた。
「公開鍵暗号学です。おそらくあと4ヶ月で完成できます。」
灰原優歌の言葉が落ちると、それまでのんびりしていた石川信方が落ち着かなくなった!
「公開鍵暗号学??!」
石川信方は突然思い出した。「今年のマーカスの重点プロジェクト、あなたがやってるの??!」
「はい、私が責任者です。」
灰原優歌の言葉に、他のメンバーも急に顔を上げ、驚愕の表情を浮かべ、息を呑んだ。
この方向性の研究をする人は少なく、そのため資料も多くない。だから成果を出すのは困難だ。
しかし灰原優歌はマーカスの新メンバーとして、いきなり重点プロジェクトを任されている。その意味するところは明白ではないか??!
これはまさにブサカ賞を狙っているということだ!!!
マーカスもお人好しではない。十分な確信がなければ、灰原優歌にこれほど力を注ぐはずがない。
つまり明らかに、マーカスは今回、彼らの国から天才を掠め取ったのだ……
それも彼らの目の前で!!!
「それで優歌、私たちの研究所とも共同プロジェクトをする余裕はない?」
主任は急いで笑顔を作り、さりげなく引き抜きを始めた。
灰原優歌が口を開こうとした瞬間、突然携帯が振動し続けた。
彼女は携帯を取り出し、目を落として見ると、マーカスからの電話だった。
主任:「……」
このじじい、千里眼でもあるのか??よりによってこのタイミングで電話してくるとは。
「優歌、出なさい。」
金井雅守も発信者名を見て、にっこりと笑って椅子に寄りかかり、余裕の表情を浮かべた。