第205章 渡様は本当に宝物を拾ったな

「彼女は本当に分かってるのかしら。裕香が小さい頃から、どんな栄誉を受けてきたか?」

森谷美貴は思わず嘲笑った。

吉田麻奈未はそれを聞いて、冷ややかに笑い、灰原優歌を見つめ続けた。

彼女はまだ灰原優歌のピアノを聴いたことがなかったが、このような楽譜を書ける人が、下手なはずがないと思った。

吉田麻奈未はそう考えると、目が期待に輝いていた!

その後。

周りの人々の興味津々な表情の中、灰原優歌の細い指が躍動した。

しかし最初の鍵盤が押された時、柴田裕香は唇を歪め、目に浮かぶ嘲りを隠そうともしなかった。

彼女は灰原優歌に少しは自信があると思っていた。でも想像もしていなかったことに、最初の音から間違えてしまうなんて。

本当に期待し過ぎだったわ。

「吉田さん、優歌の弾く曲は、さっきあなたが弾いたものとは、かなり違いますね」柴田裕香は自分の専門分野に自信を持っていた。

吉田麻奈未は眉をひそめ、灰原優歌の曲が何なのか理解できなかった。しかし、これが灰原優歌の間違いだとは思わなかった。

「これって間違えてるんじゃない?スタイルが全然違うわ」周りの人々も議論し始めた。

「そうね、二つの曲に共通点が全く聞こえないわ。さっきの楽譜を繰り返すって言ってたんじゃない?」

「確かに綺麗な音だけど、さっきの吉田さんの曲とは、まったく違うわね」

この時、傍らにいた森谷美貴も皮肉な表情で、思わず笑って言った。「私は彼女が何音か弾けると思ってたわ。まさか、何もできないのに強がるなんて」

「でも、とても素敵な音色だと思います…」森谷美貴の隣にいた令嬢が小声で言った。

「素敵だったって何の意味があるの?!」

森谷美貴は即座に振り向いて、冷笑しながら言った。「この曲は彼女が作ったわけじゃないし、この程度になるまでどれだけ練習したか分からないわ」

その言葉を聞いて、隣の令嬢は何も言えなくなった。

でも彼女には、この曲がどこか聞き覚えがあるような気がした…

そしてこの時。

吉田東雄は少し離れた場所に立ち、灰原優歌がピアノを弾く様子を見ながら、目に意外さと感動の色が浮かんだ。

彼は灰原優歌が本当に何もできないと思っていた。こんなに深く隠していたとは。

「今回は、渡様は本当に宝物を見つけましたね」吉田東雄はゆっくりと微笑んだ。

しばらくして。