「なんでもないよ」
柴田裕也と吉田東雄は何事もなかったかのように装った。
吉田麻奈未はその様子を見て、柴田裕也と吉田東雄の仲が良いことを一目で見抜いた。
「じゃあ、先に帰るわ。まだ少し終わってないことがあるから」灰原優歌はこういう場所に長居するのが好きではなかった。
「じゃあ、兄さんが送るよ」
柴田裕也は思わず言った。
「いいえ、後で運転手が迎えに来るから」
他人から見れば、灰原優歌の態度は普通だったが、柴田裕也には優歌の態度がまだ冷たいことがはっきりと分かった。
柴田裕也は目を暗くして、「じゃあ...優歌、帰ったら早く休んでね」
灰原優歌は彼を見て、「あなたもね」
その後。
灰原優歌は土屋大夫人に挨拶をして、立ち去った。
そのとき、柴田裕也は嬉しそうな表情で、目が輝き、口角が抑えきれないほど上がっていた。
優歌は今、彼のことを気にかけてくれたのか??!
この認識を得た柴田裕也は、優歌に再び兄として受け入れてもらえるよう、もっと頑張ることを決意した。
我に返ると。
柴田裕也は吉田東雄が眉を上げ、少し面白そうな目で彼を見ているのに気付いた。
この柴田裕也は普段の知能が、妹のことになると全て失われてしまうのか??
「もっと食べなよ、白菜が好きだろう?」柴田裕也は親切に吉田東雄のために白菜を取ってあげた。
「……」
吉田東雄は深いため息をつき、しばらくして笑い声を漏らし、本当に箸を取って落ち着いて白菜を食べ始めた。
お前の白菜?
お前が白菜を狼の巣に植えておいて、食べられるのを心配してるのか!??
吉田東雄は腹が立ったが、人の不幸を喜ぶタイプでもあった。彼は柴田裕也にこの真実を告げるつもりはなかった。
今の状況を見ていると、渡様が本当に柴田裕也の白菜を摘み取るのかどうか知りたくなった。
そう考えると、吉田東雄はまた面白そうに柴田裕也を横目で見た。
本当に知りたいな、柴田裕也が渡様に自分の白菜を手づから掘り取られるのを見たら、どんな表情をするのか。
……
永徳高校の採点は速く、翌日の午後には試験用紙が一斉に配られた。
灰原優歌はストローを噛みながら、自分の六枚の試験用紙を見て、およそ三百点台で、予想通りだった。