第272章 私の先生は裴さん

この言葉を聞いて、柴田おじい様は息が詰まり、柴田陸信を険しい表情で見つめた。

この小僧は本当に毒だ!

しかし。

柴田おじい様をより驚かせたのは、柴田陸信のこうした行動が、全て灰原優歌を守るためだったということだ。

彼の目の奥に暗い色が走り、思わず安堵の感情が湧いてきた。

これでよかった。

陸信が優歌を守ってくれるなら、少なくとも今後優歌は誰にも虐められることはないだろう。

その後。

柴田陸信がリンゴを半分剥いているところに、柴田浪が突然おじい様を見舞いに来た。

「優歌!??」

柴田浪は灰原優歌を見るなり、目を輝かせた。

ただし、それは柴田陸信の眉をひそかに寄せさせることとなった。

「もういい、おじい様の耳が聞こえなくなりそうだ!」柴田おじい様は目を白黒させた。

「優歌、お腹すいてない?三兄さんが下に行って何か買ってこようか?」

柴田浪は果物を置くと、すぐに灰原優歌の側に寄った。

「……結構です」

灰原優歌はまぶたを痙攣させた。

この時。

柴田陸信は柴田浪が灰原優歌に纏わりつくのを見ながら、ゆっくりとリンゴを剥いていた。

灰原優歌が騒がしさに耐えかねて適当な言い訳をして立ち去った後、柴田陸信はようやくリンゴを柴田おじい様に渡し、柴田浪を呼んだ。

「柴田浪」

「なんですか、兄さん?さっきまで優歌と長話してて、兄さんがいたことにも気付かなかったよ」柴田浪は嬉しそうだった。

そしてこの時。

柴田陸信は平然と言った、「ちょっと付いて来い」

柴田浪はそれを聞いて、柴田陸信が何か親密な話をしようとしているのだと勘違いし、喜んで付いて行った。

柴田おじい様はその様子を見て、思わず呟いた。「我が柴田家に、どうしてこんなお人好しがいるんだ?」

柴田陸信に呼び出されて、良いことなんてあるはずがないのに。

廊下で。

柴田浪は自分と灰原優歌の兄妹愛について延々と自慢し始めた。

「柴田浪」

「え?」柴田浪は一瞬固まった。

柴田陸信は微笑み、眉目秀麗で優雅に、手を伸ばして彼の服のしわを整えながら言った。「優歌に近づきすぎるな。サツミラで石炭掘りをしたくないなら」

柴田浪は全身が凍りついた:「???」

……

その日、灰原優歌はマーカスの姪の伊藤西紀とA.M.計算研究所で会う約束をしていた。

A.M.計算研究所の入り口で。