そのとき。
吉田東雄も灰原優歌に気づいた。
彼は面白そうな目つきで、この二人が普段どのように過ごしているのか見てみたいと思った。
さっき久保時渡が何気なく尋ねたところによると、この二人は喧嘩しているようだ。
「どうしたの?」
灰原優歌は振り向いて、目尻を下げて彼を見つめた。
「こっちに来て」
それを聞いて、灰原優歌は彼を見つめ、そして面白そうに見守っている吉田東雄をちらりと見て、久保時渡の方へ歩み寄った。
久保時渡はそれを見て、唇の端をわずかに上げた。
彼は立ち上がり、無造作に目を伏せながら、彼女の手首を掴んで、ヘアゴムを外した。
「外は暑いから」
そう言うと、久保時渡は少女の手の届く位置に立ち、長く整った指で優しく彼女の巻き毛を掻き上げ、ゆっくりと丁寧に髪を結んでやった。
この光景を見た吉田東雄の顔の笑みが凍りついた。
ちょっと待て。
喧嘩してるんじゃなかったのか?!
なんでこんな場面を見せられなきゃいけないんだ???
ポニーテールを結び終えると、灰原優歌は久保時渡を見つめ、実はもう怒りは消えていた。
「病院に行かなきゃ。帰りは遅くなるわ」灰原優歌は髪に触れながら言った。
「ああ」
久保時渡は唇を少し上げ、また手を伸ばして彼女の顎のラインに触れた。
吉田東雄:「……」
おい、俺、透明人間になってるの???
……
午前中。
スティーブンが手術中で、およそ四時間が経過してようやく手術室のドアが開いた。
「手術は大成功でした。お爺さまはゆっくり休養すれば大丈夫です」
もう一人の医師が笑みを浮かべ、思わず灰原優歌に言った。「本当に灰原さんのおかげで、スティーブンさんと一緒に手術ができて光栄です」
「そんな」
灰原優歌は軽く笑った。
しかし、この光景を目にした柴田夫婦の心中は複雑だった。
彼らはずっと、灰原優歌は性格が孤独で、友達がいないと思っていた。
だが思いもよらず、彼女がスティーブンとまで友達になれるとは。どうやって知り合ったのかも分からない。
「優歌、今回は本当に申し訳ない」
柴田の父が前に出て、優しく言った。
灰原優歌は冷たくもなく温かくもない口調で、「当然のことです」と答えた。
柴田の父の笑顔が凍りついた。