柴田陸信はゆっくりと袖口のボタンを留め、柴田裕香を無視した。
それに柴田裕香の表情が凍りついた。
「お兄さん、私のクラスはこっちよ。」
柴田裕香は甘えるように小声で言った。「お土産を持ってきてくれたって言ってたじゃない?」
その言葉を聞いて、柴田陸信はようやく彼女に視線を向け、突然冷笑した。
低く響く磁性のある声音に、何となく冷たさが漂っていた。「確かにお前への土産は持ってきた。帰ったら分かるさ。」
言い終わると。
柴田陸信は黒い瞳を横に向け、柴田裕香を二度と見ようとはしなかった。
「お兄さん、ありがと...」柴田裕香が明るい笑顔を見せる間もなく、柴田陸信が七組の方へ歩き出すのを目にした。
この光景。
柴田裕香だけでなく、他の人々も思わず食い入るように見つめていた。
柴田家の三人の兄は、みな非常に端麗な容姿をしているが、特に長男の気品は格別で、人々に手の届かない存在という印象を与えていた。
皆の頭の中に、ただ一つの言葉が浮かんだ。
高嶺の花。
「申し訳ありません、上田先生。遅れてしまいました。優歌の保護者会は、まだ始まっていませんよね?」柴田陸信はゆっくりと言った。
その言葉に。
担任は体を硬直させ、柴田裕也と柴田浪は思わず振り向き、信じられない様子で柴田陸信を見つめた!
大兄はどうしたんだ??
こういう会議は大嫌いなはずじゃないか?優歌の保護者会に、誰か呼んだのか???
「兄さん、僕が先に保護者会に来たんですよ!」柴田浪は不機嫌そうに言った。
「俺は...」
柴田裕也が言い終わる前に、二人は柴田陸信の投げかける気だるげな視線に、威圧感を感じた。
柴田裕也、柴田浪:「???」
そこまでする必要ある??
本当の兄弟なの?保護者会一つで、こんなに争うの!??
この時。
場の空気は一気に凍りついた。
そして次の瞬間、灰原優歌の携帯が振動した。
携帯を開くと、久保時渡からのメッセージだった。
【もうすぐ着く。】
灰原優歌の美しい目尻が微かに動いた。「...」
この状況は、どう展開していくのだろう?
「隣の席の君、すごいね。柴田裕香は二人呼んだけど、君は三人揃ってる。」土屋遥は彼女の隣で冗談めかして囁いた。
灰原優歌は彼に微笑みかけて、「四人よ。」
土屋遥:「...」