ピアノの音が響き渡る。
宴会の雰囲気が一層華やかになり、多くの人々は柴田家のお嬢様の誕生日パーティーに来て良かったと喜んでいた!
本当にラッキーだったわ!!
そして少し離れたところで。
ステージの下で、赤ワインのグラスを持った男性が、退屈そうな表情を浮かべている少女を、軽やかな視線で眺めていた。
お嬢さんはこういう場が好きではないようだ。
久保時渡は無言で微笑み、灰原優歌のところへ急いで行くこともなかった。
「渡様、さすがですね。上流社会の人々を全員集めましたか。今度お嬢様が久保氏を欲しがったら、それも彼女にあげるんですか?」吉田東雄は冗談めかして言った。
彼は久保時渡が必ず来ると知っていたので、ずっと入り口の様子を見ていた。
案の定、彼がごく自然に入ってくるのを見かけた。
しかし。
久保時渡は何気なく言った、「私が既にあげていないと、どうして分かる?」
吉田東雄:「……」
渡様は妹が足りないのか?性別にこだわらないなら、自分も候補になれるかもしれない。
「このお嬢さんは元々大胆なのに、こんなに甘やかしていて、何か問題を起こさないか心配じゃないんですか?」吉田東雄は不満げに言った。
「どんな問題を起こしても、私が責任を取る。吉田社長は自分の妹のことだけ心配していればいい。」
久保時渡は冷笑し、気品のある美しい眉目は非常に優雅だった。
すぐに多くの人々の注目を集めた。
「あそこにいるのは……久保社長??!」
「渡様??灰原優歌はなんて運がいいの??渡様まで来てるなんて!!?」
「ああああ誰も久保社長がこんな感じだって言わなかったわ、これぞ典型的な腹黒メガネ、好みドンピシャじゃない?!!」
……
「渡様、行かれては……」
吉田東雄が言い終わる前に、久保時渡は既にケーキを切っている少女の方へ歩み寄っていた。
灰原優歌は一切れ切って澄辰に渡した後、自分用にも一切れ切って味見をした。
ライムの香り付きのクリームは、それほど甘くなく、控えめな甘さだった。
その時。
久保時渡が近づいてきた時、灰原優歌の真っ赤な舌先が軽く唇を舐め、人差し指で唇の端を拭うのを目にした。
男は平然を装って目を伏せ、その光景から目を逸らした。
「少しうるさいと感じる?」
久保時渡は彼女が知り合いの友人と澄辰とだけ話しているのを見ていた。