内田和弘たちが入ってきた瞬間、雰囲気の異常さを感じ取った。
雲大の先生は、自分の学生たちの表情が深刻で良くないのを見て、すぐに状況を理解した。
ニレイ大学の数学部は、ほぼ独断的と言えるほどで、ここ数年は特に優秀な学生を輩出している。
一方、雲大はこの十年間で白木清一人だけが、ニレイ大学の数学部を圧倒した。
「どうしたんだ?誰も解答に行かないつもりか?」先生は声を落として、怒りを含んだ口調で言った。
「伊藤西紀を探しに行かせましたが、どこにいるか分からないんです……」
学生の言葉を聞いて、先生は思わず眉間を押さえた。
今や雲大は、伊藤西紀一人に面目を保たせている状態だった。
前回の物理学部討論会も、伊藤西紀が全体を仕切っていた。
しかし伊藤西紀は気性が激しく、一度頼むのは良いが、何度も頼むと全く相手にしなくなる。