彼は遠くからその人を見て、数歩追いかけた。
しかし、灰原さんは振り向きもしなかった。
「そうかな?」
灰原優歌は後部座席にだらしなく寄りかかり、その言葉が反問なのか、それとも他の意味なのかわからなかった……
「和田おじさん、今日は先に病院に行きましょう」
灰原優歌は時計を見て、言った。
「かしこまりました、お嬢様」
和田おじさんはすぐに進路を変更し、笑いながら言った。
彼には分かっていた。灰原さんは親孝行な子で、三日に一度は病院に通っていた。
そして途中で。
久保時渡から電話がかかってきた。
「お兄さん?」
灰原優歌は手元の資料をめくりながら、もう一度呼びかけた。
「優歌、授業は終わった?」
男性のその言葉を聞いて、灰原優歌はようやく久保時渡が待っていたことに気付いた。