第390章 灰原様を柴田家へ迎える

彼は遠くからその人を見て、数歩追いかけた。

しかし、灰原さんは振り向きもしなかった。

「そうかな?」

灰原優歌は後部座席にだらしなく寄りかかり、その言葉が反問なのか、それとも他の意味なのかわからなかった……

「和田おじさん、今日は先に病院に行きましょう」

灰原優歌は時計を見て、言った。

「かしこまりました、お嬢様」

和田おじさんはすぐに進路を変更し、笑いながら言った。

彼には分かっていた。灰原さんは親孝行な子で、三日に一度は病院に通っていた。

そして途中で。

久保時渡から電話がかかってきた。

「お兄さん?」

灰原優歌は手元の資料をめくりながら、もう一度呼びかけた。

「優歌、授業は終わった?」

男性のその言葉を聞いて、灰原優歌はようやく久保時渡が待っていたことに気付いた。

前回のアーチェリー場から帰ってきてから、男性は不思議と彼女の学業に対する要求が高くなっていた。

「うん。お兄さん、私は今日先に病院に行かなきゃ」

灰原優歌は言った。

床から天井までの窓際に立つ男性は、淡い色の瞳を怠惰に伏せ、背筋を緩めて立っていた。

「柴田お爺さんの回復具合はどう?」

この呼び方を聞いて、灰原優歌は何か違和感を覚えた。

しかし、それでも応答した。「うん、かなり良くなってきたわ」

この数日間、彼女に主神図で遊ぶよう頼んでいた。

「そうか。じゃあ行ってきな。後でお兄さんが迎えに行くから」

「はい」

電話を切った後。

灰原優歌はふと、アーチェリー場の入り口での抱擁を思い出した。

何の感情も込められていない、ごく単純な抱擁だったはずなのに。

でも、なぜか致命的な感覚を覚えた。

灰原優歌の瞳が暗くなった。

そしてこの時。

久保時渡も別の電話を受けた。

柴田裕也からだった。

すぐに。

久保時渡は電話に出て、淡々と尋ねた。「どうした?」

「渡様、最近お時間ありますか?私がご馳走させていただきます」

柴田裕也も車の中で、墨のように気高く端正な眉目に、だらしない笑みを浮かべていた。

「結構だ」

久保時渡はさっと断った。

しかし柴田裕也は真剣に言った。「そんなわけにはいきません。この間、妹の面倒を見ていただいて、何のお礼もしないわけにはいきませんよ!」

それを聞いて。