以前、彼が久保時渡とバスケをしていた時のことを思い出した。
運動場の半分の女子たちは、久保時渡を見るために来ていたのだ。
柴田陸信は何も言わなかったが、目の奥に暗い色が浮かび、早く優歌を連れ戻したいと思った。
誰に優歌を任せても、安心できなかった。
……
屋敷に戻ると。
灰原優歌と久保時渡は柴田おじい様と一緒に、先頭を歩いていた。
しかし次の瞬間。
柴田おじい様が顔を上げ、居間の見慣れた人影を見た時、笑顔が凍りついた。
柴田裕香だった。
しかも、隣には雲田翁と雲田卓美が座っていた。
「昨夜聞いたところによると、裕香が音楽協会の一次試験に合格したそうだね?」
雲田翁の目に賞賛の色が浮かんだ。
確かに、柴田裕香はこの令嬢界で最も目立つ存在だった。
「一次試験に過ぎません」