第412話 灰原さん?

「安美姉さんはいないみたいですけど、その人を外で待たせておきましょうか?」

その言葉を聞いて。

その人は一瞬戸惑い、「じゃあ、VIPルームにご案内しましょうか?」

片原茉子は嘲笑って言った、「堀川社長がVIPルームにいらっしゃるわ。堀川社長を怒らせたら、あなた責任取れるの?下で待たせておけばいいじゃない」

「それは...まずいんじゃないでしょうか。結局、安美姉さんを訪ねてきた方ですし」

黒縁メガネをかけた女性は、少し緊張した様子だった。

片原茉子は彼女を一瞥し、目に軽蔑と皮肉の色が浮かんだ。

彼女は優越感たっぷりの表情で、「佳枝さん、仕事にもっと真剣に取り組まないとね。一年前、私たちは同期の実習生だったのに、今でもあなたは二階の端っこの人のまま。お母さんの魚売りの手伝いでもした方がましよ」

その言葉が落ちた。

佳枝の顔は赤くなったり青ざめたりしたが、周りの人は彼女を笑い物にするか、仕事に没頭して聞こえないふりをするかだった。

誰もが知っていた、佳枝の家庭環境が良くないこと、母親が魚を売って家族を養っていることを。

一方、片原茉子は身につけているものすべてがブランド品で、高級別荘に住んでいた。二人の社会的地位は、雲泥の差があった。

「堀川社長にお茶を持っていきます」

佳枝が立ち去ろうとした時、また片原茉子に高圧的に呼び止められた。

「ちょっと待って」

佳枝は足を止め、振り返る勇気もなかった。

その時。

片原茉子は彼女に近づき、声を落として笑いながら言った、「あなたじゃ堀川社長のお世話が行き届かないでしょう。私が持っていくわ。

宅配物を取りに来たあの人は、上がらせないで。誰が手癖が悪くないって保証できるの?」

言い終わると。

片原茉子は唇の端を上げ、自信に満ちた様子で立ち去った。

佳枝は暗い表情で立ち去る時、廊下の角で化粧直しをしている片原茉子とまた出くわした。

二階では、確かに片原茉子の容姿は一二を争うほどだった。

佳枝は唇を噛み、黒縁メガネを直し、黙って階下へ向かった。

フロントで確認し、宅配物を受け取りに来たという若い女性を見つけた。

「お嬢様、あなたは...」

佳枝の言葉が途中で、灰原優歌が顔を向けた。その艶やかで美しい容貌に、思わず言葉を失った。

しかも、その美しい瞳には、まったく温もりがなかった。