約30分後。
久保時渡が戻ってきたが、リビングには苗木おばさんが夕食を温め直したばかりだった。
「久保さん、お帰りなさい。ちょうどいいところで、お料理が温かいうちに。」
苗木おばさんは微笑んだ。
「優歌は?」
久保時渡は骨ばった指でネクタイを緩め、目を伏せながら袖のボタンを外した。
「えっ?灰原さんは今日本邸に戻られましたよ。ご存知なかったのですか?」
苗木おばさんは少し驚いて答えた。
苗木おばさんにそう言われて、久保時渡はようやく思い出した。前回、柴田おじい様が優歌に伝えるように言っていたことを。
まずは優歌に本邸で1、2週間過ごしてもらうように。
柴田おじい様の誕生日のお祝いが終わったら、また優歌を迎えに行くと。
久保時渡は我に返り、「ああ、優歌はこの2週間、柴田家の本邸で過ごす。苗木おばさんも少しゆっくりできますね。」