第425話 帰らないって?誰が言った?

約30分後。

久保時渡が戻ってきたが、リビングには苗木おばさんが夕食を温め直したばかりだった。

「久保さん、お帰りなさい。ちょうどいいところで、お料理が温かいうちに。」

苗木おばさんは微笑んだ。

「優歌は?」

久保時渡は骨ばった指でネクタイを緩め、目を伏せながら袖のボタンを外した。

「えっ?灰原さんは今日本邸に戻られましたよ。ご存知なかったのですか?」

苗木おばさんは少し驚いて答えた。

苗木おばさんにそう言われて、久保時渡はようやく思い出した。前回、柴田おじい様が優歌に伝えるように言っていたことを。

まずは優歌に本邸で1、2週間過ごしてもらうように。

柴田おじい様の誕生日のお祝いが終わったら、また優歌を迎えに行くと。

久保時渡は我に返り、「ああ、優歌はこの2週間、柴田家の本邸で過ごす。苗木おばさんも少しゆっくりできますね。」

「2週間ですって?柴田家の次男のお話では、灰原さんはもう戻って来ないようですが...」

苗木おばさんは小声で呟いた。

その言葉に、階段を上ろうとしていた久保時渡の足が止まった。

「戻って来ない?」

久保時渡の低く冷たい声には、何か意味深なものが込められていた。「誰が言った?」

「柴田家の次男様ですよ。灰原さんは横で黙っていらっしゃいましたから、そのつもりなのでしょう。」

苗木おばさんは正直に答えた。

それを聞いて。

久保時渡は涼しげな指先でゆっくりと撫でるように触れた。

しばらくして。

彼は再び階段を上り始めた。「わかった。」

「久保さん、夕食は...」

「後で食べる。」

その言葉を聞いて、苗木おばさんは頭を抱えた。

以前、灰原さんがいなかった頃は、久保さんは決まった時間に食事をすることなど全くなく、体を大切にしていなかった。でも灰原さんが来てからは、久保さんは変わり始め、少なくとも毎日決まった時間に食事をするようになった。

しかし今は。

苗木おばさんから見れば、久保さんは本当に変わったわけではなく、ただ毎日灰原さんと一緒に食事をしたかっただけなのだと。

……

柴田家の本邸。

「おじい様、柴田裕也に電話して急かしてみませんか?裕也はわざとそうしているんじゃないですか?優歌と二人きりでいたいだけで。」

柴田浪は怒りを抑えながら、柴田おじい様の側に寄って言った。