第425話 帰らないって?誰が言った?

約30分後。

久保時渡が戻ってきたが、リビングには苗木おばさんが夕食を温め直したばかりだった。

「久保さん、お帰りなさい。ちょうどいいところで、お料理が温かいうちに。」

苗木おばさんは微笑んだ。

「優歌は?」

久保時渡は骨ばった指でネクタイを緩め、目を伏せながら袖のボタンを外した。

「えっ?灰原さんは今日本邸に戻られましたよ。ご存知なかったのですか?」

苗木おばさんは少し驚いて答えた。

苗木おばさんにそう言われて、久保時渡はようやく思い出した。前回、柴田おじい様が優歌に伝えるように言っていたことを。

まずは優歌に本邸で1、2週間過ごしてもらうように。

柴田おじい様の誕生日のお祝いが終わったら、また優歌を迎えに行くと。

久保時渡は我に返り、「ああ、優歌はこの2週間、柴田家の本邸で過ごす。苗木おばさんも少しゆっくりできますね。」