薄田京香は動きを止めて、ジュースのグラスを手に取り、笑いながら言った。「柴田さんは確かに素晴らしいですが、私には柴田さんにお会いする機会がなさそうですね。」
森口夫人はそれを聞いて、一瞬戸惑った。
そして、隣にいる灰原優歌を見て、「柴田さんは、ここにちゃんといらっしゃるじゃありませんか?」と言った。
その言葉が落ちた。
柴田おじい様も今になってようやく、森口夫人が灰原優歌のことを指していたと気づいた。
土屋遥は我に返り、灰原優歌を見て、「ピアノが弾けるの?」と尋ねた。
「少しね。」
「なんで早く言わなかったの!??」土屋遥は深く息を吸い、軽く微笑んだ。
灰原優歌は落ち着いた様子で彼を横目で見て、「聞かれましたか?」
土屋遥:「……」
さすが灰原優歌らしい。
この時。
全員の視線が灰原優歌に集まり、薄田京香も笑顔が凍りついた。しばらく考えて、突然灰原優歌の身分を理解した。
柴田家の新しい本当のお嬢様だったのだ。
「お嬢様はピアノがお上手なのですか?」薄田京香が尋ねた。
「まあまあです。」
灰原優歌が答えると、土屋遥は思わず彼女を見た。何かその返事が少し違和感があるように感じた。
一方、吉田麻奈未の灰原優歌への視線は、もっと率直だった。
これが「まあまあ」??
では、誰が上手いというのでしょう??!
薄田京香はそれを聞いて、ただ軽く笑って、「そうですか。女の子がピアノのような物に新鮮さと情熱を持ち続けるのは、当然のことですね。
麻奈未もピアノが弾けますよね。暇な時に柴田お嬢様に教えてあげたらどうですか?」
薄田京香の完璧な態度を見て、吉田麻奈未は可笑しく思った。
吉田麻奈未は冷たい口調で、「薄田さんは余計なお世話ですね。」
「いいえ、柴田お嬢様は……」
森口夫人は土屋家で灰原優歌のピアノを聴いたことがあった。彼女が説明しようとする前に、突然、灰原優歌が口を開いた。
「おじい様、少し外を歩きたいのですが。」
灰原優歌は柴田おじい様を見て、中にずっといたくないという様子だった。
「ああ、いいとも。優歌、行っておいで。後で兄たちに探しに行かせるよ。」
「はい。」
灰原優歌は言い終わると、吉田麻奈未を連れて外に出た。
「柴田さん、お孫さんは本当に綺麗ですね。」内海翁は思わず褒めた。