久保時渡はテーブルの上の果物を見て、自然に手に取り、骨ばった指でゆっくりと皮を剥いていた。
彼は軽薄な口調で、だらしない笑みを浮かべながら、それでいて極めて寛容な態度で言った。「うちの可愛い坊ちゃまについて、話してみようか?」
「……」
この男は自分がこんな話し方をすると、誤解を招きやすいことを知っているのだろうか?
「私は大丈夫よ」
「ふうん、お兄さんは大丈夫じゃない。優歌がいないと、お兄さんは眠れないんだ」
久保時渡が言い終わると、灰原優歌は目を上げた瞬間、男の綺麗な目の下にある薄いクマに気付いた。
確かに良く眠れていない様子だった。
その考えが灰原優歌の頭をよぎった。
次の瞬間、灰原優歌は無意識に手を伸ばし、男の涼しげな目の下の薄いクマに軽く触れた。自分の心の中の痛みに気付かないまま。
一方、男は一言も発せず、注意も促さず、ただ深い色を湛えた目で、自分の顔に触れている少女をじっと見つめていた。
「昨日は徹夜したの?」
灰原優歌が尋ねた。
「ああ」男は相変わらず自然な口調で、薄い唇に怠惰な弧を描いた。
「……自分の体を大切にできないの?」
灰原優歌は触り終わると、この男の肌は本当に良いと感じた。普段スキンケアをしているところを見たことがないのに。
そう考えると、灰原優歌は自分の思いのままにもう一度つまんで確かめたくなった。
少女が名残惜しそうに手を引っ込めるのを見て、久保時渡の目の中の深い色も薄れていった。
彼は唇の端を上げ、「うん、全部優歌の言う通りにするよ」
「……」
灰原優歌は男が自分を見る目つきを見て、落ち着かなくなって布団の中に潜り込んだ。「どうして私の言うことを全部聞くの……」
声が段々小さくなっていった。
思いがけず、男は再び低く笑い、ゆっくりと身を乗り出して、まっすぐな視線で、セクシーで致命的な声で言った。「なぜだと思う?優歌」
その瞬間。
灰原優歌の理性が全て爆発しそうになった。
「あなた……」
灰原優歌は何故か気圧されて、さらに布団の中に潜り込もうとしたが、男は唇の端を上げ、突然身を乗り出して布団の端を掴み、そのまま前に圧し掛かった。
布団の中に入り込み、ゆっくりと近づいてきた。
灰原優歌が完全に固まってしまった時。