第465章 甘えん坊な子供

この男は体力がいいな。

こんなに長く走っても、息が上がっている様子もない。

十数分後。

灰原優歌はもう走り続ける忍耐が尽きて、前を行く男の服の裾を掴んだ。

「お兄さん、ご飯に行きましょう」

灰原優歌は長い間研究室に座っているか、教室で寝ているかで、確かにもう付いていけなくなっていた。

「優歌、体力が足りないね。少し休憩して、また走る?」久保時渡は目の前の少女を見つめた。瞳は輝いていて、疲れた様子もなく、頬は健康的なピンク色を帯びているのに、もう止めたがっている。

甘えん坊な子だな。

しかし。

灰原優歌はそれを聞くと、またじっと彼を見つめて、「あなたこそ息切れしてるでしょ」

男は思わず一瞬固まり、その後ゆったりと眉を緩め、細かな笑みと慵懒さを浮かべた。

彼はセクシーな喉仏を動かし、低く笑い声を漏らした。少し掠れていた。

感情を整えてから、久保時渡は彼女に半身を寄せ、磁性のある声で緩やかに、まるで耳元で風を撫でるように、とても艶めかしく言った。「いいよ、じゃあ優歌がもっと近づいてきたら、お兄さんが息を切らして聞かせてあげようか?」

さすがの灰原優歌も、思わず体が強張り、耳根が火傷したかのように熱くなった。

この男は狐の化身か何か??

「あなた」

灰原優歌の艶やかで慵懒な瞳には言い表せない何かが宿っていた。

初めて。

灰原優歌の人生で初めて、言葉に詰まった。

灰原優歌のその表情を見て、男は慵懒な語尾を長く引き延ばし、まるで露骨な誘惑のようだった。

低い声に、魅惑的な磁性が加わり、「優歌は本当に聞きたくないの?」

「……」

灰原優歌は思考が乱れる中、心の中の異様な感情に気付かなかった。

それどころか。

誘惑に負けて情けなくも頷きそうになった。

「ご飯食べに行くわ」

灰原優歌は男を避けて、振り返ることなく前に進んだ。

しばらくして。

リビングに戻ると、灰原優歌は思わず深く息を吸い込んだが、加速した心拍はなかなか落ち着かなかった。

「おかしい」

灰原優歌は思わずつぶやいた。

どうして久保時渡に会うたびに、魔が差すのだろう。

……

永徳。

高校二年七組。

灰原優歌は片手で牛乳を持ち、小指でビニール袋を軽く引っ掛け、もう片方の手でクロワッサンを持って、終始上品な食べ方で歩いていた。