柴田の父は直接答えず、この件についてまだ少し疑念を抱いていた。
全国大会の難しさは誰もが知るところで、毎年あるが、満点を取れる人が何人いるというのか?
「おじさん、裕香はただあなたが騙されないことを願っているだけです。優歌を可愛がるあまり、裕香をこんなに疎遠にしてはいけません」
森谷美貴が言い終わると、傍らで柴田の母の声が響いた。
「聞いたでしょう?子供でさえあなたより物事をはっきり見ているわ」
灰原優歌が一位?
以前の灰原優歌の成績を、柴田家の皆は知らないのか?彼女にどうして一位を取る実力があるというの?
どう考えても、柴田の母は信じられなかった。
「でも優歌は嘘をつくような子じゃない」柴田の父は拳を握りしめ、灰原優歌のあの冷たい眼差しを思い出すと、胸が刺されるような痛みを感じた。
「柴田晴樹、もういい加減にして!灰原優歌がどんな性格か、分からないの?本当にそんな実力があるなら、なぜ今まで少しも見せなかったの?!」
柴田の母は紅茶のポットを強く机に置いた。
彼女は冷笑した。「信じられないの?それとも信じたくないの?」
「お母さん、もういいです」柴田裕香は柴田の母を引き止めた。
「見てごらんなさい、私たちが喧嘩をしても、誰が諭してくれるの?灰原優歌はあなたの娘かもしれないけど、よく考えてみなさい。もしあなたが彼女の目の前で死んでも、彼女はあなたを一目見てくれるかしら?!」
「あなたは!」
柴田の父は柴田の母を怒りの目で見つめたが、一言も言い返せなかった。
傍らの森谷美貴は、柴田家がこんな状況だとは全く想像していなかった。
柴田の父は優柔不断で、柴田の母だけが柴田裕香の味方をしている。
「お父さん、ちょっと用事があるので、先に失礼します」突然、柴田裕香が言った。
それを聞いて。
柴田の父は体を硬くし、柴田裕香を見つめた。「じゃあ、お前は……」
「お体に気をつけてください。他のことは裕香は何も気にしません」
言い終わると。
柴田裕香は森谷美貴を引っ張って、振り返ることなく立ち去った。
この光景に、柴田の父は全身が硬直し、心がまた揺らぎ始めた。
……
「裕香、この時間に何の用事があるの?私に手伝ってもらうんじゃなかったの?」
森谷美貴は不思議に思った。
なぜ柴田裕香は途中で諦めたのか。
その時。