その瞬間。
灰原優歌は誰かが後をつけて盗撮していることに気づき、思い切ってビルの外の服屋に寄って、着替えてから入ってきた。
しかし、ドアを開けると柴田裕香がいるとは思わなかった。
「どうしてここに?」
柴田裕香は目に暗い色が浮かび、笑いながら尋ねた。「音楽協会の選抜に来たの?」
灰原優歌は何気なく彼女を一瞥して、「まあね」と答えた。
柴田裕香はそれを聞いて、一瞬表情が凍りついた。灰原優歌が本当に第三次選抜に参加するとは思わなかった。
でも、第二次選抜を通過したのは、二十歳以下では彼女一人だけだったはずでは?
柴田裕香は拳を握りしめ、微笑んで言った。「あなたも第二次を通過したなんて意外ね。頑張ってね。音楽協会であなたに会えることを願ってるわ」
灰原優歌はそれを聞いて、ただ軽く嘲笑うように鼻を鳴らし、唇の端にかすかな弧を描いた。
「そうね、願うわ」
言い終わると。
灰原優歌はエレベーターホールに入り、横にいたスタッフは最後まで声を出す勇気がなかった。
「YUN先生、さっきの方は……」
「どう思う?」灰原優歌は物憂げに12階のボタンを押しながら、ゆっくりと尋ねた。
「私は知りません!何も聞いてません、何も見てません!」
スタッフは一瞬でドラマのような場面を思い浮かべ、即座に察して言った。
灰原優歌:「……」
彼女はスタッフを横目で見て、何も言わなかった。
12階に到着するまで。
「こちらへどうぞ、ここは……」
「出演者はどこで演奏するの?」灰原優歌は尋ねた。
「あ、こちらのホールで……」
灰原優歌は彼が指す方向を見て、軽く頷いた。「わかったわ、自分で行くから案内はいいわ」
そう言って。
灰原優歌は立ち去った。
……
ホールの中。
突然、一人の少女が入ってきたのを皆が見た。
少女は帽子を被り、黒のストライプスーツを着て、白いシャツのボタンを二つ外し、レザーのショートパンツを履いていて、長い脚が眩しいほど白かった。
灰原優歌は待合エリアに座り、とても気ままに前の人々を見渡した。
前で選抜を行っていたアルネと金谷智志は眉をひそめた。
これは……出演者?
見覚えがないんだが??
「続けましょう」
金谷智志が言った。
それを聞いて、アルネも深く考えずに、次の人に演奏を続けさせた。