「張本さん、林馨はまだ病院にいるの?」
「はい……隣の病室にいます」
海野桜は体を起こし、「連れて行って!」
張本さんは彼女が林馨に仕返しをしに行くと思い、急いで諭した。「お嬢様、何しに行くんですか。放っておきましょう!」
「心配しないで、何もしないわ」彼女の心配を察し、海野桜は淡く笑った。
もし本当に生まれ変わったのなら、もう林馨なんて気にしない。
もう二度と自分を破滅させるようなことはしない!
絶対に!
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隣の病室。
林馨もちょうど目を覚ましたところで、枕に寄りかかっていた。やや青白い顔色が、もともと柔らかな彼女の五官に、病的な儚さを加えていた。見る者の心を揺さぶり、優しく接したくなるような姿だった。
ベッドの傍らに座っていた東山裕は、思わず声を柔らかくして「具合はどう?大丈夫か?」
林馨は首を振り、微かに笑みを浮かべた。「社長、大丈夫です。お見舞いに来てくださって、ありがとうございます。とても嬉しいです」
「今回のことは……」
「分かっています」林馨は思いやりある様子で彼の言葉を遮った。「社長のお考えのままに処理してください。私は何も異議ありません」
つまり、彼が海野桜の過ちを不問に付すとしても、受け入れるということだ。
東山裕の瞳の色が一層深くなった。
林馨のこの優しさと思いやりは、海野桜のわがままな横暴さを一層際立たせた。
いや、もはやわがままというレベルではない。
今回は車で人を轢こうとするなんて、まさに悪質極まりない!
こんな悪質な女を妻に迎えたことを思うと、東山裕は彼女への嫌悪感が増すばかりだった。
同時に、林馨への見方も知らず知らずのうちに変化していった。
彼女が弱者だからこそ、自然と同情の念が湧いてきた……
東山裕は突然低い声で言った。「会社に戻ったら、90階に来てもらう」
林馨は驚き、喜びを隠せない様子で「社長、それは……」
「秘書総監の席を任せたい」
それは社長の最も近い位置にある職位で、多くの人が血眼になって狙っているポストだった。
林馨も切望していたが、会社の競争は非常に激しく、彼女には到底その地位を勝ち取る力がなかった。
まさか、災い転じて福となすとは……
これからは毎日彼の近くで過ごせると思うと、林馨は言いようのない興奮と喜びを感じた。
しかし表情は上品な微笑みを保ち、かすかな恥じらいを浮かべながら「ありがとうございます、社長。精一杯頑張ります。ご期待に添えるよう努めさせていただきます!」
東山裕は頷き、立ち上がって「ゆっくり休養するように。私は先に失礼する」
「はい……」林馨が彼を見つめる眼差しは、まるで兄を慕う妹のようだった。
尊敬と賞賛、そして少女らしい控えめな恋心が混ざったような眼差し。
そんな視線は、どんな男性も嫌がらず、むしろ好ましく感じるものだ。
ドア際に立っていた海野桜は、すべてを見ていた。
東山裕は振り向いた瞬間に彼女を見つけ、もともと冷淡だった瞳は一層冷たく凍りついた。
彼女は彼の妻なのに、彼は仇敵でも見るかのように嫌悪感をあらわにした。
以前の海野桜なら、彼の冷たく情のない態度に傷つき、いつも抑えきれずに騒ぎ立てていただろう。
でも、もうそんなことはない……
彼女の心は、かつてないほど平静で、むしろどうでもよくなっていた。
もう二度と彼に心を乱されることはない。絶対に!
「何しに来た?」東山裕は冷たく尋ねた。
林馨も彼女に気付いた。