しかしその時の東山裕は、身分の普通な林馨と結婚しようとしていた。
これは彼らが本当の愛を持っていることを十分に証明している。
海野桜は二人の幸せを願い、二人の視界から消えることを決意した。
でも今は急がない。彼女はゆっくりと待つつもりだ。東山裕が林馨を愛するようになれば、彼は離婚に同意するはずだから。
……
海野桜が海野家の古い屋敷に戻った時、海野統介はスポーツを終えたところだった。
彼は毎朝体を鍛えており、80歳とは思えないほど、とても健康で背筋がピンと伸びていた。
海野桜は彼の最愛の末っ子が残した唯一の娘であり、そのため海野統介にとって最も可愛がる孫娘だ。
これが海野桜が幼い頃から甘やかされて育った理由の一つで、もう一つは彼女自身の性格の問題だった。
親しみ深い祖父を見て、海野桜の目は急に熱くなった。
「おじいちゃん——」彼女は嬉しそうに、懐かしさを込めて呼びかけた。
海野統介も彼女を見て喜び、溺愛するような笑顔を浮かべた。「わしの大切な孫娘、どうして朝早くから来たの?寝坊しないの?」
海野桜は寝坊が好きで、学校がない日は毎日遅くまで寝ていた。
「おじいちゃん、今日は特別におじいちゃんに会いに来たの。会いたかったから」海野桜は彼の腕に抱きつきながら、甘えるように言った。
海野統介の気分は最高だった。
「珍しいね。桜がようやくこのじいさんのことを考えてくれるようになったとは。東山裕のことばかり考えているのかと思っていたのよ」
いいえ、今からは、彼女の心には家族しかいない。東山裕の位置はもうない。
海野桜は悲しそうに彼を見つめた。「おじいちゃん、私が一番愛しているのはおじいちゃんだよ。彼じゃない!」
今の彼は彼女の心の中で、家で飼っている犬以下の存在だ!
「はっはっはっは……」海野統介はそれを聞いて、とても嬉しくなった。孫娘が自分をなだめるために言った優しい言葉だけだと思っていたが。
「わかったよ。おじいちゃんは知ってるよ。お前が一番愛しているのは東山裕だってね。安心して、おじいちゃんは嫉妬しないから」
ほら、彼女は東山裕のことが好きじゃないと言っても、誰も信じてくれない。
「おじいちゃん、今日することは何もないから、家でおじいちゃんと一緒にいていい?」海野桜は話題を変えて、別のことを言い出した。
海野統介はもちろん大喜びだった。彼は一人で古い屋敷に住んでいて、誰かが毎日来て付き添ってくれることを望んでいた。
「いいとも、もちろんいいとも。お前がいてくれるなんて、おじいちゃんはとても嬉しいよ。はっはっ……」
おじいさんがこんなに喜んでくれて、海野桜も嬉しかったが、少し胸が痛くもなった。
前世の自分は、本当に不孝者だったのだ。
海野桜は幼い頃から活発な性格で、じっとしていられない子だったが、今日は、とても素直におじいさんに寄り添っていた。
おじいさんが書道をしたいと言えば、彼女は墨をすった。囲碁の相手をし、昔話に耳を傾け、時には演劇も見たりして過ごした……
とにかく今日の彼女は、素直で孝行な孫娘としておじいさんを喜ばせた。
同時におじいさんを困惑させもした。「桜や、最近何か問題でもあったのかい?」
海野桜は以前、何か問題を起こすたびに、特別に素直になっていたものだった。
おじいさんは彼女がまた何か問題を起こしたのだと思った。
海野桜は申し訳なさそうに言った。「おじいちゃん、何も問題はないの。今日は本当におじいちゃんに会いたかっただけ。誤解しないでね」
「本当にないのかい?」おじいさんはあまり信じていないようだった。
「本当にないわ。誓うわ!」
「うちの大切な孫娘も最近随分大人になったようだね……」海野統介は嬉しそうだったが、それでも彼女に何か問題があると思っていた。
きっと何か辛いことがあって、温もりを求めて家に帰ってきたのだろう。
彼は知っていた。彼女と東山裕の関係はあまり良くないこと、この結婚は彼女が無理やり求めたものだということを。